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美しい言葉でつづられた儚く哀しい物語 小説「花物語」なかにし礼 新潮文庫

最近、車を運転しているときはNHKのFM放送を流しています。
私が運転する時間帯は主にクラシックがかかっています。
しかし、先日、珍しくアナウンサーの方々の朗読が流れてきました
運転中に人が話しているのを聞くのはあまり好きではないのですが、そこはアナウンサーの方の力ですかね?聞き入ってしまいました。

なにしろ、声がいいのです。そしてよどみがない。
すんなりと物語の世界に嵌りこんでしまいました。

そして改めて気付いたのですが、やはり日本語は美しい。
表現も豊かです。
なんだか朗読の世界に嵌りそうな気がします。
色々と聞いてみたくなりました。

さて、今回ご紹介する小説は2020年の年末に惜しくもご逝去された作詞家のなかにし礼さんの小説「花物語」です。



では、あらすじを簡単に

浅草聖天町にある東念寺。裏通りに面した奥の部屋に18になったばかりの信子はいました。
胸の病を患い床に臥せっている信子の唯一の楽しみは、たまに出窓に身を持たせてぼんやりと道行く人の影を見ること。
「早く入院しないと取り返しのつかないことになる」
母親のように信子の身の回りの世話をする従姉妹の加代は言います。
「本当のことを言うと、加代さん、私好きな人がいるの」
だからこの家を離れたくないと信子は言うのです。
-第一章水の花-

お父さま、お許しください。千代子は恋をしました。
踊りで一人前といわれるようになるまでは佐渡へは帰るまいと19の時に佐渡を出た千代子,いえ、幾千代はお父様のご友人の沼田社長のご長男、栄一郎様を愛してしまったのです。
信じていたのです。栄一郎様を。栄一郎様のお言葉を。そして私は栄一郎様に身も心も捧げたのです。
しかし、栄一郎様には新しい恋の噂が…。その恋のお相手は…。
-第三章椿の庭-

女の業、胸の奥に秘めた闇を季節を彩る花々になぞらえた儚くも美しい14の短編集です。

作家情報

なかにし礼さんは1938(昭和13)年、中国黒龍江省牡丹江市で生れました。立教大学文学部仏文科卒業されています。
そしてシャンソンの訳詩家を経て、作詞家になられました。
代表作に「石狩挽歌」「時には娼婦のように」他多くのヒット曲を生み「天使の誘惑」「今日でお別れ」「北酒場」で日本レコード大賞を3回受賞しています。
その後クラシック界にも活動の場を広げ、オペラ「ワカヒメ」「静と義経」、オラトリオ「ヤマトタケル」、世界劇「眠り王」「源氏物語」などの作品があります。
2000年には『長崎ぶらぶら節』で直木賞を受賞しています。
本作はなかにしさんの小説デビュー作です。

音読したくなる

物語に登場する主人公の女性たちはどの女性も幸せとは言えない、はっきり言うと不幸な女性たちです。
それは、女性の影の部分に焦点を当てた作品だからだと本の冒頭に作者であるなかにしさんが記されています。
確かに誰一人として幸せではなく読んでいるうちに胸が苦しくなってしまうのだけれど、ページを捲る指が動きを止められないのは、なかにしさんが紡ぐ美しいことばに酔ってしまったからでしょうか?
短い曲の中でドラマティックな世界を描いてきたなかにしさんの選ぶ言葉が一つ一つ美しすぎるのです。
声に出して読んでみたくなるのです。
綺麗な言葉を口にしてみたくなるのです。
章ごとに花の名がつけられているのでその花を見るたびにこの本を思い出してしまいます。
儚くも哀しく美しい小説です。

花物語
著者:なかにし礼
出版社:新潮社
発行:2004年08月

※画像はAmazonより引用させていただきました

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