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奇妙で幻惑的でまさに「甘苦しい」小説「なめらかで熱くて甘苦しくて」川上弘美著 新潮文庫

4月に入り、気温も20℃を越える日が続いています。
私の住む長野県北部でも桜の花が例年よりも早く開花しています。
衣替えも早めにしたほうがいいのかなと思うのですが、身体は未だに冬仕様で動くのが億劫で…。
私の部屋は家の中でも一番日当たりが良く、このところ日中は暖房いらずです。
お日様の力って凄いですね。
窓辺で陽にあたっていると暖かすぎて眠気が襲ってきます。

春の日の昼下がりは四季の中でも一番眠くなります。
今は仕事をしていないので、家でいつでも眠れる状況ですが、仕事に行っていた時もそうでした。
うとうとと眠りに落ちそうな瞬間がたまらなく気持ちがいいのです。
普段は布団の中でしか眠れない私ですがこの時期は日差しさえあればどこででも眠れる。
カフェインを摂取しても寝ちゃうんですよね。
寝ているのか起きているのかの境目に漂う感じ…。至福の時です。
いまも少し来ているような…。
夜、中々、眠れなくてまずいんですけどね。あ、だから常に眠いのか。

さて、今回ご紹介する小説は川上弘美さんの「なめらかで熱くて甘苦しくて」です。



では、あらすじを簡単に

東京の西の郊外に住む2人の少女・汀と水面。同じ田中と言う名字ですが姻戚関係はありません。
水面は小学3年生の5月にこの町の小学校に転校してきました。
前の日に練習してきた挨拶をしたときに拍手をしてくれたおかっぱ頭の子が汀でした。
「あたし、前世の記憶があるのよ」汀は言います。そうなのと口では答える水面ですが、内心では大いに怪しんだのです。
―aqua

「葬式って、どうすればいいのかな」
誰が死んだのと聞くと沢田は「アパートの隣の部屋の子」と短く答えました。
加賀美という女の子と沢田はちょっと親しかったと言います。
加賀美は身内が早くなくなってしまったため知り合いが誰もいないようです。
結局、大家さんと沢田とでお葬式を済ませた後、引き取り手のない骨壺は沢田が預かることに…。
―terra

水、土、空気、火、4つの元素と、世界と名付けられた物語が織りなす生命と死、狂おしい愛しい女たちの人生を描く5つの短編集。

作家情報

作者は川上弘美さんです。
1958年生まれ、東京都出身です。幻想と日常が混ざり合った独特な世界観の描写が特徴的ですね。
俳人としても活動しており『機嫌のいい犬』(集英社)という句集もあります。
17文字に川上さんの感性がぎゅうっと詰まっていると思うと、とても魅力的ですね。
以前ご紹介した『おめでとう』『どこから行っても遠い町』も彼女の作品です。
本作は「新潮」に掲載された5編をまとめた作品集になります。


独特の浮遊感

『なめらかで熱くて甘苦しくて』
タイトルから想像するとなんだかとてもなまめかしい感じを受けますね。
しかし、本編を読み進めると性的な事も含まれてはいますが、どちらかと言えばほかの川上作品のように生と死が隣あっている境目に漂っているような感覚を強く感じます。
最初の「aqua」は多分、1970年代前後の頃を描いていると思われます。
水面と汀は昭和33年生まれということなので私より年上ですが、物語に出てくるアイテムなど覚えている物が多いことからか、思春期の複雑な心境が蘇って心に押し寄せてくるような感じ。
物語は章が変わるごとにどんどんと浮世から離れていき最終章の「mundus」に行きついた時には、心地よい文章の波にのまれ、ずぶずぶと沈んでいくような不思議な感覚に囚われました。
眠気に襲われうとうとし始め、我慢しているうちに堕ちそうになる、あの至福の感覚を文字で追っている感じです。「甘苦しい」という表現がピッタリ。
現実なのかそうでないのか、読後もフワフワと浮遊していく心を捕まえるのに時間がかかってしまいました。

なめらかで熱くて甘苦しくて
著者:川上弘美
出版社:新潮社
発行:2013年02月28日

※画像はAmazonより引用させていただきました

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