優しい気持ちが溢れ出る小説「あなたは、誰かの大切な人」原田マハ 講談社文庫
いつの間にか2020年も終わりに近づいています。
今年はとにかく「新型コロナウィルス」に翻弄されました。
運転中にずっと後ろの車に煽られているかのような、そんな感じです。
終わりが中々見えない年、50年以上生きていますが初めてでした。
でも、始まりがあるということは終わりもあります。
映画だって小説だって必ずエンディングはあるのです。
ハッピーエンドを迎えられるように祈りながら、いつかきっと終わることを願いながら静かに年末年始を迎えたいと思います。
さて、今回ご紹介する小説は原田マハさんの「あなたは、誰かの大切な人」です。
では、あらすじを簡単に
いつその日がやってきても、と心構えは出来ているつもりだった…。
美容師だった母が亡くなった。だが、告別式に喪主である父は姿を現さない。
父は典型的な「髪結いの亭主」だった。けれど、誰もが惚れる色男。それ以外はまったくの能無し。
-最後の伝言-
私には、ふたり、年上の女友達がいる。
その一人メキシコ系アメリカ人の友人エスター・シモンズ、79歳。
メキシコ移民で15年前に夫に先だたれている。
彼女は60歳で結婚をして、5年後に夫と死別したのだという。
その愛の物語とは……!?
-月夜のアボカド-
勤務先の美術館に宅配便が届いた。
父が他界してから一か月ほど後のことだった。
宛名を見つめるうちに父の字だと気付いた。
寡黙な父から死後に受け取った私への最後の「誕生日の贈り物」は…。
-無用の人-
6つの小さな幸福が詰まった短編集。
作家情報
作者は原田マハさんです。
伊藤忠商事、森美術館設立準備室、ニューヨーク近代美術館勤務後にフリーのキュレーターとして独立しました。
翌年にはカルチャーライターとして執筆活動を開始し、2005年に「カフーを待ちわびて」が第1回日本ラブストーリー大賞を受賞しました。
ペンネームはフランシス・ゴヤの「着衣のマハ」に由来するそうです。
以前ご紹介した『デトロイト美術館の奇跡』も彼女の作品です。
優しくありたい
さて、本作は6編からなる短編集です。
物語の主人公はいずれも仕事を持つ30代後半からから50代くらいの主に独身の女性たちです。
美容師であったりフリーランスのアートコーディネーターであったり物書きであったり…。
独身ではあっても焦ったりそれに悩んだりすることはなく、大好きな仕事に向き合っている彼女たちはなんだか生き生きしています。
親のことで考えたり自身の病のことで悩んだりもするけれど、すんなり受け入れるおおらかさ、柔軟さに憧れます。
大きな出来事は起きませんが、登場人物の人生に触れるうちに、みんなが誰かに大切にされている、大切に思われていることに、胸の内側がほわっと温められます。
コロナ過で疲れた心に染み入りますよ。
本作の6編の小説も素晴らしいのですが、巻末のフリーライターの瀧井朝世さんの解説も必読です。
小説は余韻も味わいたいので普段は解説やあとがきはあまり読みません。
しかし、本作は解説にもホロッとさせられてしまいました。
瀧井さんの優しい言葉が読後の余韻をひときわ味わい深いものにしてくれました。
自分を大切に思ってくれる人のために、優しくありたいと思わせてくれる作品です。
あなたは、誰かの大切な人
著者:原田マハ
出版社:講談社
発行:2014年12月18日
※画像はAmazonより引用させていただきました