音とともに静かに広がっていく森 映画「羊と鋼の森」

小学校4年生くらいの頃でしょうか?
当時住んでいた平屋の家に2階を増築していた時のことです。
たまたまその日は、応接間にあるピアノを調律してもらう日なので、2階の増築工事はお休みでした。
もう階段は出来ており、2階には行けるようになっていたのですが、床を貼っていないので立ち入ることは禁止されていました。
ところが、学校から帰ると末の妹の声が2階から聞こえて来ます。
母親は調律師さんとお話をしていたのでしょう。応接間にいました。
見つかると絶対に怒られると思った私は注意しようと思い、おそるおそる2階へ上がると、手前の一室の張り巡らされた木材の上に妹はいました。木材の下には薄いべニヤ板が貼られています。
「危ないよ、怒られるよ」
「平気平気、ねえ、ここ、押入れだよね。」
妹は部屋の左手奥にあった押入れになるであろう空間に這って進んでいきます。
「危ないって!」
「だいじょう…!!!!」
バリっ!!
一瞬で妹の姿は目の前から消えました。
母に知らせようと応接間に行くと、なんと、ピアノの上に正座する形で妹が…。
幸い、調律師さんはお茶を飲んでいたところでした。しかし、大きく見開かれた調律師さんの目と、怒気を含んだ母親の目は今でもはっきりと覚えています。

さて、今回、ご紹介する映画は「羊と鋼の森」です。調律師さんのお話です。



では、あらすじを簡単に

将来の夢を持っていなかった高校生の外村は、放課後の学校でピアノ調律師・板鳥に出会います。
彼が調律した体育館のグランドピアノからは、自分が住む家の裏手にある森と同じ森の匂いを感じました。
その音に魅せられ、彼は生まれて初めて故郷の北海道を離れ、調律を学ぶ専門学校に通うことになります。
2年後、彼は北海道に戻り、江藤楽器に就職します。そこには彼を魅了した音を調律した板取もいます。
入社間もない外村は先輩調律師・柳の補佐として調律に同行し、様々なピアノとその持ち主のもとを回っていきます。
そんなある日、外村は柳に付き添って、天才ピアニスト姉妹がいる佐倉家へ調律に出向きました。
努力型の和音、天才的な由仁。2人が奏でる音、求める音もそれぞれ異なり、担当の柳でさえも苦労しながら調律しています。
そしてこの姉妹との出会いが、才能に悩む外村の人生を変えることに―。

作品情報

監督は橋本光二郎さんです。相米慎二、滝田洋二郎監督らの作品で助監督を務め2010年に深夜ドラマ、BUNGO(日本文学シネマ)『冨美子の足』にて監督デビューしました。
映画監督デビューは2015年公開の『orange』です。長野県松本市が舞台の作品です。
原作は宮下奈都さんです。本作は2016年の本屋大賞を受賞しています。
主演は山﨑賢人さんです。Netflixで主演したドラマ『今際の国のアリス』が世界190か国に配信され、世界の視聴者世帯数が1800万人を超えたということで注目が集まっています。
王子様からアクション、シリアスまで演技の幅が広い、確かな演技力を持った俳優さんです。

脇を固めるのは三浦友和さん、鈴木亮平さん、吉行和子さんと実力派揃い。
そしてピアニスト姉妹を演じたのは上白石萌音さん、上白石萌歌さんのこちらも実の姉妹です。

静謐な余韻が残る

「羊と鋼の森」タイトルを見ただけではなにを表しているのかわかりませんね。
ピアノの鍵盤から伸びた先のフェルトのハンマー。フェルトは羊の毛で出来ています。
羊の毛のハンマーで鋼の弦を叩いて音が鳴るのです。
ピアノの調律の仕方ひとつで音が決まる、とても繊細な作業なんですね。
物語の始まりで調律している板取が説明してくれます。
森は外村が感じた音のイメージですね。
とにかくこの作品は映像の美しさが際立っています。
温かみのある室内の照明、森の澄んだ空気、そよぐ風が伝わってくるような雄大さ、光の取り入れ方が絶妙でうっとりします。
宮下奈都さんの原作の静謐さがとても美しく表現されています。

外村は自分に才能がないのではと悩むのですが、音を森の風景として見ることが出来る感覚はもはや才能を超えるものだと思います。
劇中に流れるピアノの音色にもうっとり。
静かで満ち足りた、余韻を残してくれる作品です。

【羊と鋼の森】
監督:橋本光二郎
脚本:金子ありさ
原案:宮下奈都『羊と鋼の森』
出演者:山﨑賢人
鈴木亮平
上白石萌音
上白石萌歌
堀内敬子
仲里依紗
城田優
森永悠希
佐野勇斗
光石研
吉行和子
三浦友和
音楽:世武裕子
主題歌:久石譲×辻井伸行
「The Dream of the Lambs」
製作年:2018年
製作国:日本

※画像はAmazonより引用させていただきました

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