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折坂悠太「朝顔」“異能”の謡い手はどこまでも地続きの愛すべき生を願う

約30年続いた平成最後の年となった2018年にリリースしたアルバム「平成」。
この作品が多くの著名な同業ミュージシャンからの絶賛を受け、一躍その名を世間に広めたのがシンガーソングライターの折坂悠太です。
そんな彼により、2019年8月に月9ドラマ「監察医 朝顔」の主題歌としてリリースされたのが今回ご紹介するシングル「朝顔」です。

幼い頃からロシアやイランなどの諸外国を転々としながら育った彼の音楽の素養はまさにワールドワイド。
ですが一方でそんな世界各国のルーツミュージックの中に、日本に古来より根付く民謡・歌謡のテイストを織り交ぜながら彼は自らの音を紡いでゆきます。
良い意味で今この時代に誰とも相容れることのない唯一無二のその響きは、どこか異国情緒を漂わせながらも誰しもの心にふとした時に燈る小さな灯りのような、暖かな懐かしさを覚えるサウンドとなっています。

自身の生きた平成という時代を作品として世に残した彼の次の地点となったのが、この「朝顔」でした。
漫画を原作としたドラマ「監察医 朝顔」は、日々自らの元に運び込まれる様々な事件の遺体の生きた証を見出す為に奮闘する法医学者のお話です。
物言わぬ仏となった多くの人々、けれど彼らは確かに数時間前までは自分だけの命をこれまで日々生きていました。
そして、これからも続くはずだった彼らの未来が永遠に喪われたことを、嘆き悲しむ人もまたいるはずなのです。

これまでの人生の中で、誰しもが必ず一度は身近な人の死に触れたことがあるでしょう。
自分の成長を何より喜んでくれた大切な肉親、あるいはかけがえのない友人、恋人、そして伴侶。
彼らの命を失った時、その喪失感の大きさに打ちひしがれた経験もまた、きっと多くの人が持つものではないでしょうか。

命はいつか必ず終わりを迎え、暖かさを宿す肉体も跡形もなく滅びる時がきます。
けれど私たちヒトが生きることの何よりの尊さは、喪うもの以上に多くのものを誰かに遺していけること。命の終わりとヒトが残したもの、その尊さに焦点を当てるドラマ「監察医 朝顔」の世界観により明確な輪郭を与えた、それがこの「朝顔」という曲なのです。

「願う」という言葉を、まるで壊れ物を扱うかのように穏やかで朴訥に歌い上げながら、曲の終盤ではこの世の最果てまで響くかのような朗々とした歌声を響かせる折坂悠太。
多くの人の心の奥底に潜む琴線に触れる、彼の叙情的なその声には古くから連綿と受け継がれてきた、ヒトの暖かな血潮が確かに宿っています。
遠い記憶の片隅に転がる、古びた埃や畳の匂い、雨上がりの蒸した土と黴の匂い。
そんな懐かしい匂いすらどこかから漂ってくるかのような、郷愁を纏った声は私たちを惹きつけて止みません。

来たる2020年にはアルバム制作を行い、そしてこれまでのような弾き語りや単独公演で、丁寧にそのメッセージを伝えていきたいと語る彼。
ぜひその紡がれる音楽に、一度酔い痴れてみては。

朝顔 [Analog]
アーティスト:折坂悠太
レーベル:ORISAKAYUTA/Less+ Project.
発売日:2019年11月3日

※画像はAmazonから引用させていただきました

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