小説『あなたの人生、片付けます』垣谷 美雨著 あなたの部屋と心は片付いていますか？

アテンションプリーズ。
アテンションプリーズ。
お客様の中に、お部屋のお掃除が出来ていない方はいらっしゃいますか〜？
日々の忙しさにかまけて、少しサボっただけのつもりで、お部屋の中が大惨事になっていらっしゃるお客様はいらっしゃいませんか〜？

はいはいはーい！　
それは私です、私の事です。
よくぞ呼んで頂きました！

そんな方がいらっしゃるのならば、是非こちらの作品をオススメします。
『あなたの人生、片付けます』（垣谷 美雨著）

ちょっと待って。
私が出来ないのは部屋の片付けであって、人生ではないんですけど。
そんな言葉をかけられる前に、この作品のご紹介をさせて頂きましょう。

主人公は片付け屋の大庭十萬里（おおばとまり）。
小柄でふくよかな彼女は、甘いものが大好きで、そして部屋の片付けに情熱を持っています。
そんな彼女の持論は「片付けられていない部屋には、心の問題が隠れている」といったものです。
彼女は片付け屋として部屋の掃除を指導するだけではありません。
その部屋の主が心に抱えている問題を浮き彫りにし、そして自覚させるのです。
たとえお節介おばさんと嫌がられようとも、依頼人の部屋も心も根本から綺麗にする為、大庭十萬里は大いに散らかった問題に挑みます。

ここまで聞くと、私の部屋が荒れてるのはあくまで私のズボラさが原因なだけで、特に問題なんてないんだけれど？と、小首を傾げたくなる方もいる事でしょう。
または、そんなに散らかってる部屋なんて不潔。
私の部屋は綺麗に片付いていますよ。
そんな方もいらっしゃるかも。

けれど、本を読み終わった後、あなたはすっくと立ち上がって、ゴミ袋を握りしめているかもしれません。
この作品を読むと、片付けられていない部屋（または家）って、ただ散らかってるとか、足の踏み場もないような汚部屋の事ばかりを指すのではないんだなぁと気付くはずです。

この作品の面白いところは、４本の短編で成り立っている所です。
なので依頼主も部屋の持ち主も様々で、年代も状況も問題も何一つ被っていません。
それを大庭十萬里がどう片付けていくか。
もちろんそれも見どころの一つなのですが、一番の注目ポイントは依頼先の多様性。
社内不倫に苦しむ30代のOLや、嫁いだ娘に家事をしに来てもらっている妻に先立たれた老人男性、ぱっと見の部屋は綺麗だけれど物を溜め込んでいる資産家老人女性、そして子供を持つ主婦。
どうです。
ものすごいバラエティ色に富んでいると思いませんか？
どれか一つだけでも自分に当てはまりそうだったり、身近にいそうな人物だったりするのではないでしょうか。
そんな身近にいそうな人物たちが抱える問題は、他人事で済まなかったり、今後自分の身にも起こるのではないかと思わせられたりします。
だからこそ作品の中に入り込む度合いが違ってくるのです。

そしていかに心や家庭の問題が、部屋や周囲に影響を与えているのかを感じられる事でしょう。

大庭十萬里が訪ねる部屋の主たちは、誰一人として自分が問題を抱えているなんて思ってもいません。
親や家族が勝手に依頼をして、迷惑だなぁくらいにしか思っていないのです。
台風のようですよね。
台風の中心にいると思いがけず静かで、台風が去ったのだと勘違いしそうになります。
でも一歩中心の外に出ると、そこは大雨洪水暴風。
激しい嵐が猛り狂っているのです。
問題もそう。
本人よりも、少し離れた所にいる人の方が、本質を良く見ているのかもしれません。

もし最近部屋が荒れ気味で…、いつもはそんな事ないんだけど。とか、四六時中散らかっています！　なんて方がいらっしゃれば大庭十萬里に是非ご依頼を。

きっとあなたの部屋だけでなく、心の塵も払ってくれるはずですよ！

あなたの人生、片づけます
著者：垣谷 美雨
出版社：双葉社
発行：2013年11月6日

※画像はAmazonより引用しました