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恩田陸「木漏れ日に泳ぐ魚」濃密な空間で描かれる、男と女の極上のミステリー

だれだ?

あれは確か20代の後半だったかな?
お盆休み中、中学校の同級会で起きた不思議な出来事。

正式に先生を呼んでの同級会ではなく、地元にいる友人や、お盆休みで実家に帰って来ていた人が呑んでカラオケをする感じの緩い集まりでした。
しかし、珍しく人が集まり、17,8人はいたと思います。

友人のS子がトイレに行った帰り、天然パーマの男性を連れてきました。
「だれ?」
そう聞く私たちにS子は
「岩井(仮)だよ~。迷っていたからつれてきた」
「岩井?」
「そうだよ~。ねえ、岩井」
岩井は困ったような顔をして「ハイ」と一言。
「まあ、飲め」
中学時代に岩井をよくかまっていた男子Mにいきなり強い酒を飲まされていたっけ。
3時間ほどたちお開きとなり、私と仲の良いグループ4,5人は駅前でラーメンを食べることになりました。
岩井は帰ると言っていたので車で来ていたAが送ることに。

20分ほどたったころ、Aと一緒に車に乗って帰ったはずのMの2人がラーメン屋にきました。
「あれ?帰ったんじゃなかったの?」
「ラーメン食べたかったの?」
そう聞く私たちにAは
「いや、違う」
「なに?岩井はちゃんと送っていったの?」
「あれ、岩井じゃねぇ」
とM。
「????」

AとMが言うには、2人はずっとあれは岩井ではないと思っていたとのこと。
カマを掛けてきこうとしても、岩井は笑うばかりではぐらかされ、いよいよ妖しいと思った2人は岩井の家の前まで送っていったようです。
「普通に家に入れば岩井のはず」
2人は少し離れた道に車を止め、岩井を見ていたそうです。
「岩井、家に入らず、近辺をうろうろし始めた」
知らない場所に連れてこられた人みたいに…。
ヤダ…。
1月後、Mは岩井に連絡を取り、飲み会に連れてきました。
それはあの日と全く違う人でした。

あれ、誰だ?…。
私史上最大のミステリー。

さて、今回ご紹介する小説は恩田陸著「木漏れ日に泳ぐ魚」です。

では、あらすじを簡単に

あるアパートの一室。すっかり空っぽになってしまった部屋で、別々の道を歩むことに決めた男と女は最後の夜を過ごすことになります。
高橋千浩と藤本千明。2人は大学のテニスサークルで出会いました。
初めてダブルスを組んだとき、お互いの動きが手に取るようにわかった。周囲も初めて組んだとは思えないと不思議がったほど。
2人は似ていました。そしてそれを恋だと勘違いしたのです。
最後の夜、過去の話のなかに徐々に生じる違和感。二人がたどり着こうとする真実の先には何が見えるのでしょうか?
これは、1枚の写真についての物語。
ある男の死をめぐる話でもあるし、山の話でもある。
そして、一組の男女の別離の話という側面でもあるのです…。

作者情報

作者の恩田陸さんは『六番目の小夜子』でデビューしました。
2017年(平成29年)、『蜜蜂と遠雷』で、第156回直木三十五賞、第14回本屋大賞を受賞されました。
『蜜蜂と遠雷』は2019年に松岡茉優さん主演で映画化もされています。
郷愁を誘う情景描写に定評があります。

真珠のピアスの行方

さて、この作品、引っ越し前日の何もないアパートの中、別れを決めた男女の最後の夜が舞台となっています。

話し手は章ごとに入れ替わり、それぞれの視点で描かれています。
一人の男の死を巡り、2人の過去や関係をお互いが振り返る形で進みます。
眼前の人物が男を殺したのではないかという疑惑を抱きながら…。

しかし、そんな中で語られる松任谷由美の楽曲「真珠のピアス」に関しての考察はユーミン世代の私にとってはとても興味深い内容でした。

緊迫感漂う巧みな心理描写に圧倒され、ぐいぐいと引き込まれ、一気読みしてしまった。

そして、女性の気持ちの冷め方がとてもリアルで共感してしまいました。
冷静になっていく中で自身の恋愛傾向も分析してしまうとは、千明恐るべし、と感じずにはいられません。

若干のモヤモヤも残しつつ、ラストはなんだか前向きな未来が見えるようでスッキリしました。

木漏れ日に泳ぐ魚
著者:恩田陸
出版社:文藝春秋
発行:2010年11月10日

※画像はAmazonより引用させていただきました

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