• HOME
  • ブログ
  • 書籍
  • 秋の夜長にしっくりくるホラー作品はいかが?小説「押入れのちよ」荻原浩著
押入れのちよ

秋の夜長にしっくりくるホラー作品はいかが?小説「押入れのちよ」荻原浩著

幼いころ住んでいた家では、居間につづいている6畳の和室に親子5人で布団を並べて寝ていました。

押入れから布団を出してシーツを敷き枕を置いて掛け布団をかける。
私たち三姉妹はなぜかこの時間になるとテンションが上がりました。

なぜならば押入れで遊べるから。
かくれんぼをしたり積み上げてある布団の上に押入れの上段から飛び降りたり。寝る前数十分のそんな遊びが大好きだったのです。

ある日、押入れ遊びに飽きた私は布団に入り母に耳掻きをしてもらっていました。

気持ちよくウトウトし始めたときです。
「ぎゃー!」
何かに乗っかられた衝撃と耳に激痛が…。
その後の事はあまり覚えてはいないのですが、確か押入れから飛び降りた妹が目測を誤って母の背中に激突したようです。
そして耳かき中の私の耳に、耳かきがグサッと…。

翌日から押入れで遊ぶのは禁止されたと思います。
耳が普通に聞こえているのでどの程度のけがだったのかは覚えていませんが、痛かったことだけはしっかりと記憶に残っています。
やらかした妹は全く覚えてはいないと言っていますが…。

さて、今回ご紹介する小説は荻原浩さんの「押入れのちよ」です。表紙の女の子が妹に見えてしまいました。



では、あらすじを簡単に

お母さまが生まれたのはロシア。お母さまのロシアのスープはわたしと同じ日に生まれたソーニャの大好物です。
わたしたちは中国の森で暮らしています。
ときどきふもとの村に住むマァさんが私たちの家に色々なものを届けに来てくれます。
けれど、おかあさんは決しマァさんを見てはいけないというのです。
(お母さまのロシアのスープ)

画家だった秀雄叔父が亡くなり他に近親がいない叔父の邸宅を相続した川嶋道夫。
唯一の甥に当たる道夫でも叔父の記憶はうすいものでした。
美術学校を中退し、名ばかりの絵画塾を開いてはいたものの、生涯1度も作品を発表していなかった叔父。
ひっそりと隠れるように生き、ひっそりと死んでいった叔父は、古い家とたくさんの油絵と一匹の老猫を遺していったのです。
(老猫)

恵太28歳。リストラ同然に会社を辞めた。引っ越した先は駅から早足で9分。家賃3万3千円の「月が丘マンション」。
安いだけあって確かにボロイ。
しかも引っ越しの翌日、押入れから「出て」来たのは明治生まれの14歳。身長130cmのおかっぱ頭の「ちよ」でした。
(表題作 押入れのちよ)

1夜から9夜、全9編からなる短編集です。

作者情報

作者は荻原浩さんです。大学卒業後、広告代理店2社の務めを経て独立しフリーのコピーライターとして活動していました。
小説を書きはじめたのは39歳の時です。そして1997年、初めて書いた長編小説『オロロ畑でつかまえて』で第10回小説すばる新人賞を受賞し小説家デビューしました。
2016年 『海の見える理髪店』で第155回直木三十五賞を受賞しています。
あらすじにもある「お母さまのロシアのスープ」は第58回日本推理作家協会賞(短編部門)候補になりました。
人情やユーモアあふれる物語に定評があり、映像化された作品も多数あります。

秋の夜長にぴったり

全9夜からなる「押入れのちよ」は一夜ごとに様々なテイストを味わえるホラー短編集です。

表題作の「押入れのちよ」のちよは明治生まれの14歳の幽霊、おかっぱ頭で可愛らしい風貌ですが話し方が少し年寄りじみていてクスリと笑えます。
しかし、14歳というところから尋常でない人生を送ったのだろうと思われます。
そして、それは悲哀をともない…。
幽霊で怖い存在だけれど、好物のビーフジャーキーやおにぎりを食べている姿を想像してつい「うふふ」と笑ってしまった。
薄暗い部屋で本を読んで笑ってる中年女性の方が怖いですよね。ごめんなさい。

表題作の「押入れのちよ」のようにちょっとホッコリするお話もあればガッツリとホラー味が効いた背筋が凍り付くようなお話もあり、それぞれが厚みのある内容なだけに読み応えがあります。
文章も丁寧で優しく読みやすいです。

暖かい毛布にくるまれて読むホラー小説も乙なものですよ。

押入れのちよ
著者:荻原浩
出版社:新潮社
発行:2006年5月

※画像はAmazonより引用させていただきました

関連記事一覧