文章から映像が浮かぶ切なく美しい恋物語。小説「桜のような僕の恋人」宇山佳佑著
末の妹の旦那のお母さんは大の読書好き。
70も半ばになるのですが様々なジャンルの作品を読んでいるようです。
たまに、本棚に入りきらなくなってしまった本を妹にくれるのですが、読書とはあまり縁のない妹は全く読みません。
ですので、私と母親、もう一人の妹で楽しんでいます。
自分では選ばないジャンルの作品がたくさんあるのですが、読んでみると中々に面白い。
見る目があるのだなと思います。
今回ご紹介する作品もそのうちの1つ。
「SNSで話題の泣ける1冊!!」などと評判の作品のようなのですが、ひねくれ者の私は「フーン…。じゃあ泣くもんか!」と思い手に取りました。
嫌な性格だな…。
さて、私は泣いたのか?どうなのか?
小説「桜のような僕の恋人」です。
では、あらすじを簡単に
美容師の美咲に一目ぼれした晴人。髪を切ってもらっている最中に起こったアクシデントがきっかけで彼女とデートの約束をします。
彼女に認めてもらいたい一心で、一度は諦めたカメラマンの夢を再び目指すことになった晴人。
そんな晴人に美咲も徐々に惹かれ、やがて二人は幸せな恋人同士になります。
しかし、幸せな時間は長くは続くことはなく…。
美咲は、人の何十倍もの早さで年老いる難病「ファストフォワード症候群」を発症してしまったのです。
自分が老婆になっていく姿を晴人にだけは見せたくないと悩む美咲は……。
作家情報
宇山 佳佑さんは、2015年「ガールズ・ステップ」で小説家デビューしました。それ以前は脚本家として「信長協奏曲」 (2014年) 「世にも奇妙な物語」などで活躍されていました。
3作目の小説「今夜、ロマンス劇場で」(2017年)は綾瀬はるかさんと坂口健太郎さん主演で映画化されています。
タオル必至!
恋人同士が難病に運命を翻弄されたり苦難を味わったりする作品は「泣かせる」ことが前提ということが垣間見えるようでなんだか苦手です。
しかし、読んだり観たりするとやっぱり泣いてしまうんですよね。
ハイ、本作、私、泣きました。
何度も何度も…。というか、泣きながら読んだ感じです。
特に後半近くなってからは…。
“ファストフォワード症候群”とは早老症の一種で、同病であるウェルナー症候群やプロジェリア症候群に比べて老化の速度が圧倒的に早い事が特徴。
発症すると常人の数十倍の速度で年を取り、免疫力が低下し、発症から1年経たずに外見が老人のようになるそうです。
心は24歳なのに身体だけは急激に老化して行ってしまうという難病に美咲は侵されてしまいます。
病は明るい彼女の心まで変えてしまい、彼女を治そうと躍起になって様々に手を尽くしてくれる優しい兄にまで暴言を吐くように…。
そして、晴人に迷惑をかけることを恐れ、「新しい彼氏ができた」と言い彼と別れることを決意します。
美咲の老化が進みどんどん衰弱していく様がリアルに描かれていて正直、苦しくなってしまいました。
登場人物全員がとにかく思いやりと愛情が深いので辛い。
美咲のお兄さんも、お兄さんの婚約者も、そしてもちろん晴人も優しい。
文体は読みやすく、そして脚本家として映像作品に関わっていたということからなのか、文章から映像が浮かんでくるよう。
曲を乗せると素敵な歌になるようなとても親しみのある文章です。
“桜”というのは美咲の人生の儚さも表しているのでしょうか。
愛する人に姿を見られたくはなくても、本当は会いたくて会いたくてたまらないだろうに…。
切なくて悲しくてやりきれないけれど鮮烈な印象と余韻を残す作品です。
ひとりでじっくりティッシュペーパー、ううん、タオルを片手に読むことをお勧めします。
桜のような僕の恋人
著者:宇山佳佑
出版社:集英社
発行:2017年2月17日
※画像はAmazonより引用させていただきました