短編小説集「氷平線」桜木柴乃著

本屋で小説を選ぶとき、私は表紙の雰囲気とタイトルで選ぶことが多いです。
漫画もそうです。
それで酷い目にあうこともしばしば。

例えば、私の場合、小説は一気に読む派です。
キリの良いところで栞を挟んで次の日の楽しみにすることが出来ません。
ある程度の覚悟と時間が必要なので、気分転換には漫画を選びます。
見目麗しいイケメンが表紙で
「面白そう!」
と思った本が、あられもない描写の最上級のBL本だったり。
ええ、全部読みましたけど。
当時付き合い始めたばかりの主人にも見つかりましたけど。

さて、今回は「ホテルローヤル」で第149回直木賞を受賞した桜木柴乃さんのデビュー作「氷平線」をご紹介します。
6編の短編集になります。

この本は表紙やタイトルに惹かれたわけではなく、作者の名前に惹かれ購入した作品です。
「桜木柴乃」
文字を見ただけでも、声に出して言ってみても品のある文学的な名前ですよね。
名前がもう「ヒロイン」感漂ってます。

「桜木」というと今までは「花道」(スラムダンクの主人公)だったのですが
「柴乃」と続くとこんなにも文学の香りがするなんて。

大方の予想通りペンネームなのですが、こんなペンネームを思いつくなんてさすがとしか言いようがないです。
名前で即決した本はこの作品と、「沼田まほかる」さんの作品です。(沼田作品はまたの機会に紹介しますね)

あらすじ(表紙裏より)
“真っ白に海が凍るオホーツク沿岸の町で、静かに再会した男と女の清冽な愛を描いた表題作、酪農の地を継ぐ者たちの悲しみと希望を牧草匂う交歓の裏に映し出した、オール讀物新人賞受賞作「雪虫」ほか、珠玉の全六編を収録。
北の大地に生きる人々の哀歓を圧倒的な迫力で描き出した、著者渾身のデビュー作品集“

舞台は北海道。
でも観光地ではなくいわゆる僻地と言ってもいい場所。
田舎ですね。
閉塞的な。

北海道だけど閉鎖的。
私自身も田舎住みなので共感できます。

特に、人の家のことはよく知っているし、知りたい。けれど自分のことは知られたくはないし、また、知られてはいないと思う奇妙な思い込み。
田舎あるあるですね。
「○○のお父さんはお母さんの妹の元カレなんだって」
とか、どこから仕入れた情報なのか、皆さんよくご存じで。
田舎在住の私が実際に聞いた情報です。

作者は、「新官能派」というキャッチコピーでデビューした性愛文学の作家と言われているそうですが、生活感と、それの延長である人間の本能、そして悲哀を伴った行為として淡々と描写されているので、私はあまりエロさを感じませんでした。
登場人物がそれぞれ仕事を持ち、その仕事が人物を映し出す重要な要素になっているのが、非常にリアルに丁寧に書き込まれています。
その仕事も、いわゆる「手に職」的な職業が多く(和裁、理容師、酪農家、歯科医)組織で働くというよりも一人で、あるいは家族でというように、より閉塞感が増す要素なのかな?と思います。

これが作者のデビュー作かと思うと脱帽です。

ある意味ルーティーンと化した、淡々とした退屈な日常の中に起こる些細な出来事は、変わるように思えて大して変わらず、でも、それを受け入れ強く生きる北の人々に圧倒されます。
重いようでいて、読後は何とも言えない郷愁のようなものが押し寄せてきて
「作者の次が読みたい」
と思わせる作品です。

ちなみに、恋愛映画は苦手な私ですが、小説は頭の中で登場人物を自分の好きにイメージできるので、結構読みます。
というか、表紙やタイトルで選んでいるので、内容など読むまでわからないんですけどね。
そういった意味では、恋愛小説を選ぶのではなくたまたま恋愛小説だっただけといった方が正しいのかも。

この作品は私のように恋愛系が苦手な方にもお勧めできる作品です。
しんしんと冷える静かな冬の夜にぜひじっくり読んでいただきたいと思います。

氷平線
著者:桜木紫乃
出版社:文藝春秋
発行:2012年4月10日

※画像はAmazonより引用しました

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