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小説「李歐」髙村薫 やけにリアルで生々しい日常と甘美な夢の対比が苦しくそして美しい…。

ユキさん

私が講師をしていた職業訓練校は
「日本語が理解できれば国籍は問わない」
という代表の方針がありましたので様々な国の方が訓練を受けに来ていました。

東南アジアご出身の方が多かったな。

その中で印象的だったのが小学生の頃に日本に来たというユキさん。
彼女は中国残留孤児であった祖母と家族と共に日本に来たのです。

驚いたのはその事実を知ったのが、訓練も終盤であと何日かで修了という時。

その日は修了テスト代わりのパワポを使ったプレゼン発表会でした。

彼女は自分の生まれた地の紹介をしたのです。

彼女の話す日本語には全く違和感がなく、もちろん文字もとても丁寧で美しく、言われるまで誰一人として気づきませんでした。

美しいスライドに移される中国の風景をより彩ったのが、彼女の美しい中国語でした。
歌うような、流れるようなトーンの言葉に、大陸の風を感じる気がしました。

そしてそれを話している彼女も元から美人でしたが、なんだか一層艶やかに見えた不思議。
中国語がこんなに美しいなんて…。

初めて気づきました。

さて、今回ご紹介する小説は高村薫さんの「李歐」です。



では、あらすじを簡単に

母親の駆け落ち相手の男を捜すため、ナイトクラブでバイトをする吉田一彰。
ある夜、そこで殺人事件に巻き込まれ、それは徐々に彼の人生を狂わせていきます。
一彰の目の前で、2人の男を正確に射殺したのは美貌の殺し屋“李歐”。
「惚れたって言えよ」
彼は言います。
一彰が彼に対して抱いたのは、恐怖ではありませんでした。
その日、一彰は運命に出会ったのです。
しかし、2人が観た大陸の夢は、15年という月日に非情にも引き裂かれ…。

作家情報

作者は高村薫さんです。
1990年『黄金を抱いて翔べ』でデビューしました。
そして、1993年『マークスの山』で直木賞を受賞しています。

重厚で硬質でハードボイルドな作風に定評があります。
映像化されている作品も多数あります。

単行本から文庫化するにあたって、大胆な改稿を行うことが多いようですよ。
「李歐」も「わが手に拳銃を」を下敷きにしてリメイクされた作品です。
リメイクと言ってもセルフリメイクですね。
展開がかなり変わっているようですよ。

もはやラブストーリー

空っぽ。無為。無明。だるい。
自分の人生をそんな言葉でしか表現できない一彰が出会ったのは、見たこともないような整った顔立ちの黒曜石のような瞳を持つ男。

「李歐」

私も彼の登場に一彰と共に胸をときめかせてしまった。

一彰は6歳の時、母親と東京から大阪に移り住みます。
そしてアパートの裏手にある守山工場という町工場に出入りするようになります。

機械の油臭さ、音などが浮かびあがるように精密に描かれます。
それと対比させるように描かれる桜の美しさも心に残ります。
後に一彰に起こる哀しい出来事と共に…。

おもえば、美しい母親との蜜月ともいえる日々を失ったこの幼少期の体験が、後の一彰の形容しがたい寂寥感を育てたのではないかなと思います。

ぼんやりと霞がかかったような日常に鮮やかな色を与えてくれたのが李歐だったのです。

2人が過ごした日々は長くはなく、離れ離れになり、人々の口から語られる李歐
の姿は、一彰が思うよりもっと鮮やかです。
そして、会いたい気持ちはどんどん一途なものになっていきます。

それは読者である私の胸も苦しくなるほどです。

もう友情を軽く飛び越えてもはや恋です。
とても尊い。

500頁を超える長編ですが、世界観に引き込まれ一気に読んでしまいました。

「惚れたって言えよ」

はい、惚れました。

李歐と一彰の壮大で美しい青春の物語に…。

李歐
著者:髙村薫
出版社:講談社
発行:1999年2月8日

※画像は講談社BOOK倶楽部より引用させていただきました

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