小説「漁港の肉子ちゃん」西加奈子著

我が家の女性陣は(私、母、妹2人 注:双子です)三女以外みな本好きです。
母に至ってはkindleを愛用しています。
次女は、たまに本を何冊か私のところに持ってきます。
「面白いかどうかの確認」のようです。
私も次女もタイトルや表紙の雰囲気で本を買ってしまうのですが、好みが似ているのかな?たいていハズレはないです。

さて今回はそんな妹が持ってきた本の中から私のイチ押しをご紹介します。
2015年に「サラバ!」で直木賞を受賞した西加奈子さんの
「漁港の肉子ちゃん」
です。

あらすじ

男にだまされてボロボロの母・肉子ちゃんと一緒に、流れ着いた北の町。
肉子ちゃんは漁港の焼肉屋で働き始めます。太っていて不細工で、明るい肉子ちゃん(38歳)本名は菊子。
まん丸に太っているからみんなが肉子ちゃんと呼ぶ。
行く先々で男に騙されボロボロなのに肉子ちゃんは明るく前向きでエネルギッシュ。
大げさな大阪弁で大きな声で喋り語尾には「!」「っ!」が必ず付く。
焼肉屋「うをがし」の裏にある家を借り母娘2人で住んでいます。
一方、娘のキクりんは小学5年生。賢くて可愛くて肉子ちゃんを反面教師として育ったのか少し冷めた女の子です。
肉子ちゃんが好きだけど、思春期一歩手前の多感な時期。
最近肉子ちゃんのことが少し恥ずかしくもあります。

物語は小学生の娘キクりんの目線で描かれています。
肉子ちゃんの大げさな大阪弁にキクりんの冷静で少し辛辣なツッコミが入り、漫才のようにテンポよく面白おかしく描写される肉子ちゃん。
最初は「あ、私、この人無理かも」と若干の嫌悪感を持っていました。
しかし、独特の数字の語呂合わせや漢字の話、例えば
「自ら大きいと書いて臭いやから!」
など、クスリと笑わされているうちにどんどん肉子ちゃんが愛おしくなってきます。
というのも、肉子ちゃんは人の言ったことをそのまま受け止めます。
そして顔色を伺ったり疑ったりすることをしません。
真っすぐなんですね。
そんな彼女を「馬鹿なんじゃない?」とキクりんは恥ずかしがります。
けれど、肉子ちゃんの真の部分を本当はちゃんと理解しているところが明らかになる後半部分は泣かされました。
なにより、何度も男にだまされボロボロになっても肉子ちゃん、ちゃんとキクりんを育てているのです。
キクりんは「ウチは貧しい」と度々実感します。
けれど、部屋に肉子ちゃんチョイスのセンスの悪い雑貨類はあっても「汚い」という描写はされてはいません。
学校から帰ってくるキクりんのためにおやつの用意も食事の心配もしています。
お母さんしているのです。生活力あるんですね。
早く帰ってきたキクりんを、彼女の好きな水族館に連れていくなど、ほんのり思い出に残るようなお出掛けもします。
愛情をたっぷり注いでいるのです。

物語は心も体も日々成長していくキクりんと、どんな時も変わらず明るい肉子ちゃん母娘を軸に、漁港の人々の息遣いも活き活きと描写され、特に何も大きな出来事が起こるわけでもなく進んでいきます。
しかし、ラスト100ページから、いつの間にか鼻の奥がつんとし始め、私は泣きながらページをめくっていました。
肉子ちゃんが愛おしくてたまらなくて。
肉子ちゃんには表も裏もありません。
人はTPOに応じて様々な顔を持つけれど、肉子ちゃんはあくまでも肉子ちゃんなのです。
人を真っすぐに受け止める肉子ちゃんはまさしく愛そのモノなのだと思います。

読後はとても優しい気持ちにさせられます。
人にも自分自身にも優しくしたくなるような。
眉間の皺がほぐれるような。
肉子ちゃん風に言うと「一石二鳥やな!」です。

300ページを超える本作ですが、リズミカルな文章でテンポよくあっという間に読み進められます。
どうしようもなく自分が嫌になってしまった時、すべてを投げ出したくなってしまった時、肉子ちゃんや漁港の人々の優しさや言葉にほんの少し勇気をもらえる、そんな作品です。

漁港の肉子ちゃん
著者:西加奈子
出版社:幻冬舎
発行:2011年9月1日

※画像はAmazonより引用しました

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