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出会いはやがて“繋がり”になる 小説「アイネクライネナハトムジーク」伊坂幸太郎著

読書感想文

休校中の高校生の息子は、日々ゲームに勤しんでいます。
たまに思い出したように課題をやるといった感じです。

先日
「課題終わったの?」
と問う私に息子は
「ほぼ終わった」
と。
(どうせ3割くらいしかやってないな)

「あ、あと、アレ、残ってるんだ」
「アレとは?」
「読書感想文」
「題材は何にするの?」
「何がいいのかわからない」

私は本棚で、息子でも読めそうな軽めで尚且つ心に余韻が残るような作品を探したのですが、これが難しい。
普段、漫画とライトノベルしか読まない息子に何を薦めていいのかわかりません。
すると、本棚を一緒に見ていた息子が
「アイネクライネ」
「…ナハトムジーク?いいんじゃない?」
「米津…」
「伊坂幸太郎だよ」
「違う、米津玄師のうた」
「ああ。そっち」
「これ、おもしろい?」
「うん」
「じゃあこれにする」

息子が本を持って自分の部屋に行って10分くらいたった頃、

「あのさ、題材、決まってた」。
「あらま、何?」
「4つあるんだけどさ、俺、ごんぎつねにする」
「は???」

梶井基次郎「檸檬」
芥川龍之介「蜘蛛の糸」
宮沢賢治「セロ弾きのゴーシュ」
新見南吉「ごんぎつね」

選択の幅ありすぎ!

さて、今回ご紹介する作品は、息子が手に取った小説「アイネクライネナハトムジーク」です。
私が書きます!
これも一種の繋がりかしら?

では、あらすじを簡単に

「劇的な出会い」を待つだけの佐藤は、街頭アンケートを実施中。
今時なかなか相手にしてもらえない中、珍しく快く応えてくれたのはリクルートスーツの女性でした。
手首には「シャンプー」の文字。
思わず佐藤は音読してしまいます。
「あ」彼女は自分の手首を見て、「今日安いんですよ」と小さな声で淡々と説明します。
その様子が少し可笑しかった。
佐藤は思います。
(これって出会い?運命?)
佐藤は、居酒屋で雇われ店長をやっている親友が言っていた言葉を思い出します。
「出会いなんてどうだっていい、後で自分の幸運に感謝できるのが一番だ」。
彼には分不相応なほどの美人な奥さんと可愛い娘がいる。幸せそうだ。
- 第1篇“アイネクライネ”より 
運命って、奇跡って、幸せって?
音と音がつながってメロディが生まれるように、誰かと誰かがつながって物語が生まれる。
6つの短編からなる、オムニバス形式のラブストーリー。

作品情報

作者は伊坂幸太郎さんです。
2000年『オーデュボンの祈り』で第5回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞し、デビューしました。
「アヒルと鴨のコインロッカー」「フィッシュ・ストーリー」「魔王」「グラスホッパー」「ゴールデンスランバー」など、作品の多くが映画化されています。
若者、女性からの人気が高いベストセラー作家です。
テンポの良い軽妙な語り口がクセになります。

「アイネクライネナハトムジーク」は6作品が収録されている連作短編集となっています。
2014年9月に幻冬舎より発行されました。
この作品が誕生したきっかけは、伊坂さんが大ファンと公言するミュージシャンの斉藤和義さんから、〈出会い〉をテーマにした歌詞を書いてほしいという依頼からだったそうです。
「作詞はできないので小説を書くことならば」と、完成させた一編が冒頭の短編「アイネクライネ」です。
斉藤和義さんはその短編から「ベリーベリーストロング~アイネクライネ~」という楽曲を仕上げました。
作詞には伊坂幸太郎さんの名がクレジットされています。

昨年、三浦春馬さん主演で映画化もされています。
いくえみ綾さん作画の漫画作品もありますよ。

殺し屋も変人もいない

伊坂幸太郎作品には珍しい恋愛小説です。
殺し屋もサイコパスも出てきません。

短編集ではありますが、一篇一篇がパズルのピースのようで、最後に綺麗にピタリと組み合わさります。
短編集の形を演じている長編だと思いました。

茶道の教えに「一期一会」という言葉があります。
同じ人と会うにしろその機会は一生に1度きりです。
ですので、出会いひとつひとつを大事に、誠意を尽くしましょうという意味です。

この物語を読んでいたらその言葉が、ふと頭に浮かびました。

ひょっとしたら私も誰かの人生に影響を与えているのかもしれない、それがどこかで繋がっているかもしれない。
そう考えると、何気ない日常の中に散らばっている小さな出会いを、大切にしていきたいなと思います。

ドキドキハラハラはない恋愛小説ですが、読後は心がホッコリと暖かくなりますよ。

アイネクライネナハトムジーク
著者:伊坂幸太郎
出版社:幻冬舎
発行:2014年9月26日

※画像はAmazonより引用させていただきました

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