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きつねのはなし森見登美彦

読後は“きつねにつままれた”気分になる小説「きつねのはなし」森見登美彦著

私の住んでいる場所はとっても田舎なので野生動物によく遭遇します。
しかし、引っ越してきて20年近く経ちますが以前よりは減ってきたような気がします。
この場所に移り住んだばかりの頃は家の前の道路をニホンカモシカがゆったりと渡っていたり、隣の畑には巨大なイノシシが出没したり、家の倉庫でタヌキが寝ていたこともありました。

思えば、ここ数年の間にも近くの杉林が無くなり、いつの間にかメガソーラーに代わっています。
カブトムシやクワガタが採れる崖沿いのクヌギの木も、獣除けの電柵を設置するために全部伐採されてしまった。
動物たちの居場所が無くなっているんだな。

そう考えるとなんだか申し訳ない気持ちになってしまう。

息子を迎えに行った帰り道、車の前を横切ったキツネを見てそんな思いに耽ってしまいました。
さて、今回ご紹介する小説は森見登美彦さんの「きつねのはなし」です。



では、あらすじを簡単に

私は京都の一乗寺にある古道具屋「芳蓮堂」でアルバイトをしています。
店主のナツメさんは涼しげで優しい目をしていて私よりも背が高い。そんなナツメさんを私はきれいな人だなと思ったのです。
ある日、私は体調が悪く、店の皿を割ってしまいます。
ナツメさんは言います。
「天城さんのところへ行っていただけますか」(表題作キツネのはなしより)

先輩は妙な人でした。一乗寺にある二階建ての古いアパートを二部屋借りていて一部屋は本を補完する図書室でした。
ことさら風変わりなことをして見せなくても周りと一線を画しているように見えた。
先輩はたいてい静かにしていたのですが、話始めると滾々と水が湧き出るかのように話題のつきないひとでした。とても物知りで経験豊富な先輩の話を聞くことが私は好きでした。(果実の中の龍より)

全4話からなる奇妙で不思議な奇譚集です。

作家情報

作者の森見登美彦さんは奈良県生駒市出身で現在も奈良市に在住しています。
2003年『太陽の塔』で第15回日本ファンタジーノベル大賞を受賞して、小説家デビューしました。
2006年『夜は短し歩けよ乙女』で山本周五郎賞を受賞し、第137回直木賞(2007年上期)候補にもなりました。
そして2007年には第4回本屋大賞(2位)に選定されています。
森見さんといえば『夜は短し歩けよ乙女』を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。この作品はアニメ化もされていますね。
京都を舞台にした摩訶不思議な独特の世界観の作品が印象的です。

誰かに見られている…かもしれない

なんとも不思議な森見ワールドは健在ですが、面白可笑しく奇妙な『四畳半神話体系』とは違い、ほんの少しホラー、というか怪談風味が強めです。

登場人物が大学生という作品が多いからか森見作品のファンは圧倒的に10代から20代の若者層が多いという印象です。
しかし、この作品はほんのりと冷たい湿り気を帯びた今までにない作風で大人の私たちでも十分楽しめる内容になっています。

どの作品も登場人物が重なっていたり、同じ店が出てきたりと繋がっているようでいないようでなんだか不思議な感じ。
自分までも京都の持つ「魔」にやられた気分。
時代背景も曖昧でレトロな空気感は郷愁を誘います。

なんだろう、背後から誰かに見られているかのような不気味な気配を感じてしまう、じんわりとした怖さを感じました。
しんとした静かな夜にぴったりな作品です。

きつねのはなし
著者:森見登美彦
出版社:新潮社
発行:2006年10月30日

※画像はAmazonより引用させていただきました

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