瀬尾まいこ「幸福な食卓」形は変わっても変わらないあたたかな家族という絆
父の日
6月21日は父の日でした。
息子の父である私の夫はもう亡き人なので、息子が赤ん坊の頃から父親代わりを務めてくれている妹たちの旦那様2人に毎年プレゼントを買っています。
今年は息子も私もすっかり父の日を忘れていて、当日の朝、私の母から
「今日、父の日だけどなんか用意しているの?」
といわれ、慌ててプレゼントを買いに行きました。
我が家は妹夫婦2組と母、私、息子の7人が同居するちょっと変わった家族構成なので、息子が小学校の頃、学校の先生に
「よくオジサンという方の話をするんですけど、どういった関係の方なんですか?」
などと、私の彼氏ではないのかと怪しまれたり、面倒なこともありました。
しかし、トラブルが起きてもなんだかんだ今も全員一緒にいます。
まとまりがあるようでないような、でも、息子のことになるとみんな真剣。
今年はアロハシャツを選んでプレゼントしました。
2人のお父さんありがとう。
さて、今回ご紹介する小説は瀬尾まいこの「幸福な食卓」です。
あらすじ
「父さんは今日で父さんをやめようと思う。」
佐和子の父・弘はある朝の食卓で言います。
母さんは家を出て、天才と呼ばれた兄・直ちゃんは大学に行かず、突然農業を始めました。
5年前の梅雨のあの日から、佐和子の家族はちょっと変なのです。
戸惑いながら生きる佐和子は、同じ塾に通う大浦勉学と出会います。
驚くほど単純な性格の大浦ですが、いつしか佐和子にとっては心の支えとなっていたのです。
2人はそろって同じ進学校に合格し高校生活が始まるのですが…。
作品情報
著者の瀬尾まいこさんは、2001年に『卵の緒』で第7回坊っちゃん文学賞大賞を受賞し作家デビューしました。
『幸福な食卓』は2005年に第26回吉川英治文学新人賞を受賞しています。
2005年から2011年に退職するまでは中学校で国語教諭として勤務していたようです。
国語教諭らしく、読みやすく優しい文章は胸に刺さります。
変わらずにあるもの
さて、物語は冒頭からいきなり佐和子の父の「お父さんをやめる」宣言から始まります。
佐和子の家族は父、母、兄、佐和子の4人家族です。
しかし、5年前のあることがきっかけで母は精神を病み、1年前に家を出て今はアパートに一人で暮らしています。
兄は大学を辞め農業に従事し、佐和子はあることがあった梅雨の時期になると体調を崩します。
作者は中学校の先生だったということもあり、思春期真っ盛りの佐和子の心情を瑞々しく且つリアルに描いています。
おかげで、自分の中学時代を懐かしく思い出してしまった。
佐和子の彼氏、心の支えである大浦君。
単純で、ストレートに自分の気持ちを言葉で態度で行動で示す大浦君がとても可愛い。
幼い恋人同士のやり取りにニンマリしてしまいます。
後半、まさかの展開には胸が締め付けられました。
穏やかだった日常が一変してしまうようなこと。
大切なものを失ってしまうどうしようもない喪失感に思わず涙が溢れてしまいました。
しかし、予想外のことが起きようと、変わらずに朝は来るし食べなければお腹もそのうち空いてきます。
生きるために食べるのです。
そして、人は一人で生きているのではなく、気付かないところでいろいろなものに守られて生きているのだと感じさせてくれた作品です。
形や距離が変わっても根底にあるものが繋がっていればそれは一つになる。
優しさと愛に溢れた作品です。
幸福な食卓
著者:瀬尾 まいこ
出版社:講談社
発行:2004年11月20日
※画像はAmazonより引用させていただきました