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覚めない悪夢のよう…。小説「ぼっけえ、きょうてえ」岩井志麻子著 角川ホラー文庫

本を選ぶときは表紙を見て選ぶときとタイトルの言葉の響きの美しさや面白さで選ぶときがあるのですが、今回ご紹介する小説「ぼっけえ、きょうてえ」はタイトルの響きで選んだ作品です。
今から20年ほど前のことです。
「ぼっけえ、きょうてえ」とは岡山弁で「とても、怖い」という意味だそうです。
岡山弁になじみがない私でも「ものすごく怖いんだな」と感じたくらいインパクトがありました。
しかし、すぐに手には取らなかったな。
それは、表紙の女性が「とても、怖い」から…。
全身から力が抜けているような生気のない感じ…。なのに口元は微笑みを湛えていて、なんだかぞっとしてしまいました。
書店に3度通ってやっと購入したような気がします。
家に帰り表紙を見ないように袋から出し、すぐさま表紙を取って机の奥にしまいました。
でもね、見開きの1ページ目に「いた」んですよ。
思わず小さく叫んでしまった。
甲斐庄 楠音(かいのしょう ただおと)という大正時代の日本画家の作品で、それまでの日本画とは違うリアルさとグロテスクさで「穢い絵」とか「デロリとした絵」などと評されていたようです。うん、確かに「デロリ」だ。
でも、一度みると目が離せなくなってしまう力を持った不思議な絵です。
目を離した途端、絵の女性の目がぎょろりと動くかも、いや、しゃべるかもしれないと思ってしまうのです。
嫌いではないんですよ。怖いだけで…。
さて、本の中身のお話をしましょう。



では、あらすじを簡単に

…妾の身の上話を聞きたいじゃて?
…変わったお方じゃなぁ。
…ますますええ夢は見られんなるよ。
間引き専業の母親、数を五つまでしか数えられない父親。1年おきに飢饉に見舞われる貧しい村で飢饉の年に生まれた餓死ん子。
四つの時から間引きの手伝いをしていた女には間引きの思い出しかないという。
…嬉しいことも辛いこともありゃあせん。そういうふうに生まれついたんじゃから。
顔の左側が何かに引っ張られているように目や鼻がこめかみに向けて吊り上がっている醜い女郎が客にする地獄のような寝物語。-「ぼっけえ、きょうてえ」
明治時代の岡山を舞台にした4篇のホラー短編集。

作家情報

作者は岩井志麻子さんです。
本作は1999年に第6回日本ホラー小説大賞を受賞しました。
そして翌年の2000年には第13回山本周五郎賞を受賞しています。

作家としてデビューしたのは1986年です。
少女小説「夢みるうさぎとポリスボーイ」がデビュー作です。

ちなみに「ぼっけえ、きょうてえ」は2006年に世界のホラー映画監督13人を集めて作られた『マスターズ・オブ・ホラー』シリーズ中のひとつとして映像化されています。
『インプリント〜ぼっけえ、きょうてえ〜』というタイトルで監督は三池崇史さんです。
岩井志麻子さんも拷問師として出演しています。
しかし、拷問シーンがあまりにも残虐なためアメリカでは放送中止になったようですよ。
私も観たのですが岩井さん迫力があってとても怖かった。一番怖くて不気味でした。

じわりとくる

本作はびっくりどっきり心臓バクバク系のホラーではなく、ねっとりじっとり絡みつく不気味さが際立っている作品です。

表題の「ぼっけえ、きょうてえ」は醜い女郎が客にする寝物語であるので、最初から最後まで女郎の一人語りで構成されています。
岡山弁で語られる彼女の身の上話はひたすら陰惨です。生きながら地獄を見ているよう…。地元の言葉で語られるのでより生々しい。

2篇目の「密告函」は岡山県下にコレラが蔓延し、村役場に設置された密告函を巡る短編です。
コレラにかかっているもの、疑いのあるものの名を投函する箱です。
コレラの感染を知られると村八分になることを恐れ、家族ぐるみで隠すものがいる…。閉鎖的な村だから起こることではないということを今の私たちは知っています。
病気を恐れるのではなく、感染したことを知られる恐怖…コロナ禍のいま、リアルに恐ろしさを感じました。

覚めない悪夢を見せられたような独特の雰囲気を醸し出す小説です。

ぼっけえ、きょうてえ
著者:岩井志麻子
出版社:角川書店
発行:1999年10月28日

※画像はAmazonより引用させていただきました

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