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ぼくの美しい人だから

出会うはずのない2人が出会ってしまった。その先は? 小説「僕の美しい人だから」グレン・サヴァン著

我が家の息子は夏休み中からバイトを始めました 。
先にバイトを始めていた同級生の紹介で、スーパーのバックヤードでの仕事をしています。
学校終わりの5時から8時までの3時間で週に4日。

それなりにやりがいもあり楽しんでいるようです 。
しかし、私が住んでいる場所は夜の8時を過ぎるともうバスがなく、仕方なく、私がバイト終わりに迎えにいっています

息子が車に乗り込んでくると、むわっと鼻につく油の臭い。
どうやら惣菜の調理場で片付けや調理油の交換などをしているようで、 体に油の匂いが沁みついています。
制服を着用しているのですが洗濯をしても油の匂いはなかなか取れません 。

車の中が油の匂いでいっぱい。

油の匂いで思い出したことがあります。それが今回ご紹介する小説 「ぼくの美しい人だから」です。



では、あらすじを簡単に

主人公マックスは27歳のエリート広告マン。高収入で身長は低いけどハンサムです。
しかし、2年前に最愛の妻ジェイニーを自動車事故で失った傷が未だに癒えることはなく、立ち直れず無気力に日々を過ごしています。
若く美しく誰もが完璧と言わずにいられない女性でした。

ある日苦情を言いに訪れたハンバーガー店で売り子をしていたくたびれた中年女性ノーラと、夜のバーで再び出会い、泥酔した挙句、そのまま関係を結んでしまいます。
ノーラは41歳。足の踏み場もないような不衛生な部屋に住み、美人でもなく無教養で自堕落。彼女もまた息子を亡くしています。
潔癖症のマックスとは住む世界がまったく違うノーラの生活環境。
しかし、そんなノーラにマックスは強く惹かれてゆきます。
そして、いつしか2人は恋人同士に。
お互いの隙間を埋め合うように激しく求めあう2人ですが、マックスは周囲にノーラを紹介することをためらいます。
一方でノーラは自分のことを恥と感じているマックスの気持ちに気づき…。

作家情報

作者はグレン・サヴァンです。
1987年にベストセラーになったこの作品は彼のデビュー作になります。
残念ながら2003年に長年患っていたパーキンソン病による心臓発作で亡くなっています。
日本ではほかに1994年に新潮文庫から「あるがままに愛したい」と言う作品が出版されているようです。

恋の先に在るもの

さて、冒頭でお話した油の匂いですが、ノーラが働いているファーストフード店の「ホワイト・パレス」の店内に充満しているファーストフード店特有の匂いとして作品で度々書かれています。
そしてノーラの身体にも沁みついている油の匂いは、彼女の社会的な立ち位置を象徴するものでもあります。

年齢の違い、家柄の違い、学歴の違い、古今東西ラブストーリーには様々な障害が出現します。
「障害があるほど盛り上がる」というのもあるのでしょうが、あらかじめ計算できないものだから「恋に落ちる」というのだろうし、止められない想いが熱くなるのでしょうね。

余談ですが、私が中学生の時、学校の前に流れる川の清掃をしていた1つ上の先輩が、川底の石で滑り川の中に落ちた瞬間の、困ったような笑顔に一瞬で心を持っていかれたことを思い出しました。
全くタイプではなかったのに。小太りで時代劇の鬘が似合うような面立ちの人でした。

さて、マックスとノーラは一夜限りで済ませるつもりが、いつしか離れがたくなってしまいます。
2人の恋愛関係がデビュー作とは思えないほどの説得力を伴い、詳細に丁寧に時に辛辣に描かれていて引き込まれます。

はすっぱで自堕落な中年女性ノーラとの恋愛は美男美女の美しいラブストーリーとは違い、圧倒的なリアルさを感じます。

恋愛関係を続けるにはどちらかに寄せるのではなく、お互いのすべてを受け入れ、尊重することが大切なんですね。
とてもシンプルな事ですが中々に難しい。

絶世の美女ではないけれどどんなに貶められようと自尊心を失わないノーラの強さは美しいと思います。

この作品は映画化もされており、マックスをジェームズ・スペイダー、ノーラをスーザン・サランドンが演じています。

表紙は映画のワンシーンを切り取ったものです。
原作にもあるとても胸に刺さるシーンです。

映画も合わせて観ることをお勧めしたい作品です。

ぼくの美しい人だから
著者:グレン・サヴァン
出版社:新潮社
発行:1990年8月

※画像はAmazonより引用させていただきました

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