家日和

ユーモア溢れる現代の家族の姿 小説「家日和」奥田英朗

息子が小学校に上がり、フルタイムで働き始めた40代前半の頃。
女性ばかりの職場は賑やかでとても楽しかった。

ある日、長い朝礼を終え、いよいよ仕事にとりかかろうとしていた時、上司が不意に
「今日、朝ごはん何食べた?」
と私たちに問いかけました。
上司によると、彼女の家は毎朝、目玉焼きとみそ汁、海苔の佃煮などが食卓に並ぶようで、それに飽きたという息子さんとひと悶着あったようです。

「焼き魚」
「パン」
「おにぎり」
「コーヒーだけ」

そして私が
「お納豆」
と言ったとたん、上司は大声で笑いながら
「納豆に”お”をつけるな!」と言ったのです。
「えっ?“お”納豆って言いませんか?」
「言わない、みんな言う?」
そこにいたのは10人程だったと思います。その全員が
「言わない」と…。

「えーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!ウチだけなの?」

天地がひっくり返るようなショック…は言い過ぎですがかなりショックを受けました。
家に戻り早速、母と妹たちに伝えたのですが
「え?うそ?そういえば旦那たちも”お”付けないな」
今後はこんなことがないように、そして息子が使ってバカにされたらかわいそうなので外では使わないと取決めました。

しかし、最近、気になり色々調べると“お”を付ける地方もあるようです。
なんだ、我が家だけではなかったんじゃん。
堂々と使わせてもらいます。

元上司に言いたいけれど「なんの話だ」と言われるのがオチなのでやめておこう。

さて、今回ご紹介する小説は「家日和」です。



では、あらすじを簡単に

不要になったピクニック用の折り畳みテーブルをインターネットオークションに出品した山本紀子42歳。
彼女には2人の子供がいるのですが、下の子が中学に上がってから家族で出かける機会がめっきり減ってしまったのです。
妹に薦められたネット・オークションでの落札価格は3800円。
手続きを済ませた紀子は心がスーッと晴れた気がしました。
そして、オークション評価が思ったより高く人に褒められることに喜びを感じた紀子は次々と出品を始め、ついには夫の私物まで売ってしまうようになり…。
(サニーデイ)

佐藤弘子39歳専業主婦。夫の給料で十分暮らせるのですが、蓄えが欲しい彼女は、DM用の宛先をパソコンで入力する内職をしています。
しかしある日突然、前任者からはなんの挨拶もなく内職先の担当者が派手なピンクのネクタイをした顔の浅黒い若い男性に変わったのです。
やけに図々しい男にあきれる弘子。
しかし、その夜、変な夢を見ます。グレープフルーツの怪物に犯される夢。
そういえば、あの担当者からは柑橘系のフレグランスの匂いがした。
(グレープフルーツ・モンスター)

現代の家族の肖像を優しく描く6編の短編集です。

作家情報

作者の奥田英朗さんはプランナー、コピーライター、構成作家を経て1997年『ウランバーナの森』で小説家としてデビューします。
そして、2004年 『空中ブランコ』 で第131回直木賞を受賞しています。
代表作に「最悪」(1999年)精神科医・伊良部シリーズ(『空中ブランコ』もこのシリーズです)平成の家族小説シリーズがあります。
「家日和」は平成の家族小説シリーズの第一作目の作品となります。
『小説すばる』(集英社)2004年9月号から2006年12月号に掲載された作品です。
ミステリー・サスペンスからユーモアたっぷりの喜劇小説まで、幅広いジャンルを手掛ける作家として定評があります。

家族に優しく

さて、この作品、登場人物がとても作りこまれたキャラクターで実際に身近にいるようなリアル感があります。
まるでノンフィクションを読んでいるような感覚に陥りますが、他の作家が描くとシリアスな設定でも、さすが奥田英朗作品。
作品全体を覆うユーモアで笑える場面もありほっこりします。
かと思えば、ホロリとさせられたりと、油断できないぞ!という感じ。

家族を思えばこそ、悩みも深刻になります。
何処にでもあるような家族の悩みは共感できる部分も多くあります。
どの家族もこれから幸せになって欲しいな。
読後はじんわりと胸が暖かくなり、家族に優しくしたくなる、そんな作品です。

家日和
著者:奥田英朗
出版社:集英社
発行:2007年4月5日

※画像はAmazonより引用させていただきました

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