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昭和初期の山手の洋館で営まれる日常と、時を経て明かされる事実が胸を打つ小説「小さいおうち」中島京子著

日本語には「敬語」があります。
それは「尊敬語」「謙譲語Ⅰ」「謙譲語Ⅱ(丁重語)」「丁寧語」「美化語」と5種類あります。
仕事を辞めてから会話するのは家族や親しい友人ぐらいなので敬語を使う場面がほとんどなくなってきています。
はぁ…。
謙譲語ってどう使うんだっけ?

最近の若者が使う言葉にも段々とついていけなくなっています。
会話する年齢層が高いせいだと思います。
中高年の皆さまとしか話していない。(息子除く)
敬語も実際に使わなくてはなかなか身に着けることは出来ないのです。
在職中は「1日敬語縛り」とかよくやったな。
結構楽しかったですよ。
ちなみに、私は怒っていると非常に丁寧な敬語で話始めるようです。
自分では気が付かなかったのですが、前職で事務員さんに指摘されました。
敬語の目的に「相手との距離を置く」という意味も含まれていることを思えば、私は丁寧な敬語で距離を置くことによって「今、怒っているから!」と伝えているのですかね?
自分のことながらよく判らないけれど、多分そうなのだと思います。

さて今回ご紹介する小説は中島京子著「小さいおうち」です。
登場人物の言葉遣いがとてもきれい。

では、あらすじを簡単に。

88歳、米寿を迎えた布宮タキは、ノートに回想録を記していました。表紙に記されたタイトルは「心覚えの記」。出版を目的に書いていたのですが、編集者の女性が来なくなってからは甥の息子の健史が唯一の読者です。
昭和5年、山形から上京したタキは、女中として小中家、次いで浅野家に仕えます。浅野家の主人が事故死し、時子夫人は一人息子の恭一とタキを伴って実家に戻ります。昭和7年の暮れ、時子が平井と再婚すると、タキも平井家に仕えることとなりました。玩具会社の役員である平井は、やがてモダンな赤い屋根の家を建て、タキにも小さな女中部屋が与えられます。タキは平井一家に、なにより時子に誠実に尽くし、女中であることを誇りに思いながら暮らしていました。その生活に動乱の時代の気配はなく、ひたすら穏やかな日々が続いていました。玩具会社の若手デザイナー板倉正治が訪れるまでは…。

著者の中島京子さんはこの作品で2010年、第143回直木三十五賞を受賞されています。

「小さいおうち」は戦前の昭和初期が舞台です。
東京山の手にある赤い屋根の小さな洋館での平井家の生活の営みが丁寧に描かれています。
文章に温かみがあり、品があるので、まるで自分がそこに居るかのように平井家の暖かい空気感が文章を経て伝わってくる感じがします。
また、昭和初期の東京の風景、百貨店での買い物、年末の家事などその時代に生きてはいないけれど、懐かしさを感じました。

この時代を生きていたタキの生活の知恵、例えば料理や掃除の仕方などは私たちも十分参考にできます。
手軽で便利な電化製品などはなかったと思いますが、手をかけて丁寧に暮らす様子は現代よりも余裕があり、精神的に豊かだったのだろうなと思われます。

戦争が近づくにつれ生活環境も徐々に変化していきますが、穏やかな日常にはあまり変わりはなかったというのは、その時代に普通の営みをしてきた者にしか判らない事ですね。
甥の息子である健史が「そんなにウキウキしているわけがない」と真っ向から否定したのは、私たちは戦争があったという事実しか学んでこなかったからなんですね。
その対比も健史の存在によって際立っています。

物語はこの健史によってある意味、驚きの事実が解き明かされます。
タキの思いが痛いほど伝わってきて泣けます。

この作品は山田洋二監督が実写化を熱望した作品で、2014年に実写化されています。
時子奥様を松たか子さんが演じ、タキを黒木華さんが演じました。
この作品で黒木華さんは第64回ベルリン国際映画祭最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞したそうです。
興味を持たれた方は映画もお勧めです。
動くタキさんと美しい奥様、お二方とも役にピッタリとはまっていますよ。

小さいおうち
著者:中島京子
出版社:文藝春秋
発行:2010年5月27日

※画像はAmazonより引用させていただきました

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