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女性が入り込む余地なし?描かれた「男の友情」の官能と美しさを愛でる!ルネサンスのコスチュームも萌え

ルネサンス時代の画集をめくっていると、男性2人が描かれた作品が意外と多いのに驚かされます。
彼らの表情は一様に穏やかで、互いに心を許しあっていることまでが絵の中から伝わってくるのです。
実は「友情」というテーマ、古代ローマの文学作品がもてはやされたルネサンス時代において見直された概念でした。かなり流行となっていたようで当時のインテリたちがこぞって親しい友人たちとともに肖像画を残しているのです。
女性としてはちょっと妬けるような、その美しい友情の証をのぞいてみましょう。

夭折した天才画家ジョルジオーネが描いた「2人の男性の肖像」。酸味と甘味を表す柑橘類を手に持って物思いにふける前方の男性と優しい視線を投げかける後方の男性の関係は、ジョルジオーネの作品の常。官能的でミステリアスです。
1502年ごろ ローマヴェネツィア宮殿博物館
画像:パブリックドメイン
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Giorgione_100.jpg



ルネサンス時代にブームになった「友情」というコンセプト

なぜルネサンスの時代に「友情」というコンセプトが脚光を浴びたのでしょうか。
ルネサンスという言葉は「再生」を意味します。なにが再生したのかといえば、古代ローマやギリシアの文化が大変なブームとなって数世紀を経てよみがえったということなのです。

古代ギリシアやローマの文化の影響は、絵画や彫刻などの芸術面にとどまりませんでした。キケロやカエサルをはじめとする文学の分野も、ルネサンス時代の知識層に大きな影響を与えたのです。
古代ローマを代表する雄弁家キケロには、『友情について』という著作があります。これが、ルネサンス時代のインテリ男性たちを大いに刺激し、友とともに絵画の中に納まるという現象が生まれたわけです。

もちろん、中世にも友情は存在していたでしょう。
しかしあえてそれを意識し、芸術や文学に反映させることが16世紀に大流行したのです。

ラファエロと友人

「友人と並ぶ自画像」ラファエロ・サンツィオ作 1518年ごろ パリ・ルーヴル美術館所蔵
画像(パブリックドメイン)
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Portrait_de_l%27artiste_avec_un_ami,_by_Raffaello_Sanzio,_from_C2RMF_retouched.jpg

友人と描いた自画像として有名なのがラファエロのこちらの作品です。
ラファエロの自画像といえば、ヴァティカン博物館の「ラファエロの間」に残る若々しい美青年が頭に浮かびますが、彼にも壮年の時代があったのです。
昨年、イタリアはラファエロの500年忌で盛り上がりましたが、この作品はラファエロが亡くなる少し前に描かれたようです。

30代半ばと思しきラファエロとともに描かれている友人、実は誰なのか判明しておりません。弟子であるとか文学仲間であるとか諸説ありますが、ラファエロの手が友人の肩に置かれていることから気の置けない仲であったことが察せられます。

こちらを向く視線が3人目の友人を感じさせる作品

「アンドレア・ナヴァジェーロとアゴスティーノ・ベアッツァーノの肖像」 ラファエロ・サンツィオ作 1516年ごろ ローマ・ドーリア・パンフィーリ美術館
画像(パブリックドメイン)
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Double_Raphael.jpg

同じくラファエロが描いた作品には、あまり美化されていないゆえにモデルの性格までも浮き出るような2人が描かれています。この絵を所有していたのは、モデルとなった2人の友人であった文学者ピエトロ・ベンボでした。ラファエロ自身が彼ら3人と昵懇の仲であったそうで、こちらを向く2人の視線が3人目となる友人の存在を感じさせてくれる構図です。

友人が指さすキケロの『友情について』

「2人の友人」ポントルモ作 1522年ごろ ヴェネツィア・ジョルジオ・チーニ財団所蔵
画像(パブリックドメイン)
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Jacopo_Pontormo_-_Portrait_of_Two_Friends_-_WGA18109.jpg

マニエリスムの画家ポントルモは、美術ファンのあいだでも好悪がわかれる特徴があります。彼が描いた2人の男性たちは、ポントルモの柔らかい筆で表現された静謐な視線をこちらに向けています。向かって左側の男性が指さしているのはキケロの『友情について』の一節。
「われわれは親友同士だよ!」と喧伝しているかのようで微笑ましいですね。

別れ別れになってしまった友人たち

左側 「エラスムス」 クエンティン・マサイス作 1517年 ローマ国立古典絵画館
右側 「ペトルス・アエギディウス」クエンティン・マサイス作 1517年 ソールズベリー・ラドナー伯爵コレクション
画像:パブリックドメイン
https://it.wikipedia.org/wiki/File:Quentin_Massys-_Erasmus_of_Rotterdam.JPG
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Quinten_Massijs_(I)_-_Portrait_of_Pieter_Gillis_-_WGA14290.jpg

哲学者のエラスムスが友人とともに描かれたこの肖像画は、共通の友達である思想家トマス・モアへの贈り物でした。エラスムスからトマス・モアへ送られた手紙には、「たとえ運命がわれわれを引き裂いても、常に互いのそばにいることができるように」と願い、画家のマサイスに注文したと書かれています。
受け取ったトマス・モアも非常に喜んだという2人の肖像画、無粋なことに2つに切断されて現在にいたります。エラスムスはローマの美術館に、友人のアエギティウスはイギリスのソールズベリーにあるロングフォード城に保管されていて、生前の2人の思いは果たせないままになっています。

穏やかで幸福に満ちた視線をこちらに投げてくる友人たちの肖像、友情とは愛情のひとつであることを実感します。そして、女性同士にはない官能的な空気が、なぜか男性だけの肖像には漂うこの不思議。
当時の風潮に忠実にそろって黒い服に身を包んでいるためか、より顔の表情が際立ちます。写真がなかった時代には、こうした絵画が人々の心の支えになっていたのでしょうか。互いへの思いがあふれるような、濃密な空間がキャンバスの中に広がっています。

参照元
https://scuola.repubblica.it/puglia-bari-lcliceosimonemorea/2020/06/06/lamicizia-allepoca-romana/
https://www.treccani.it/enciclopedia/certame-coronario_%28Enciclopedia-Italiana%29/
https://www.treccani.it/enciclopedia/galeotto-marzio_%28Dizionario-Biografico%29/
http://www.arte.it/raffaello/un-omaggio-all-amicizia-nel-segno-della-grazia-il-i-ritratto-di-baldassarre-castiglione-i-di-raffaello-17281
http://tesi.cab.unipd.it/54768/1/MARIA_TUZZATO_2017.pdf



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