19世紀末の芸術に魅了されすぎたら世界が広がった☆the decadence☆ Vol.4【枯れた花―前編】

皆さんは、花はお好きでしょうか。
また、どんな花に魅了されますか。

さて、前回までは、展覧会に足を運ぶきっかけとして、ファッションセンスのUPに繋がる芸術鑑賞の仕方についてお話しました。
芸術を好きだからと言って金銭的に裕福になるわけではありません。
展覧会に行けば出費もありますし、労力も使います。
でも、芸術はそれ以上に私たちを、ありきたりな言い方ですが、心を裕福にしてくれます。
また、芸術を通して自分の「好き」を知ることでファッションだけでなく、日常使用するアイテムや、ひょっとしたら新たな趣味が増え、それがプロフェッショナルの世界へと通じる入り口になることもあると思います。
私自身、フォトグラファになった誘因のひとつである「花」を撮る際に、どんな感じの花に惹かれるのか、実際に写真を撮ってみてはじめて嗜好を知りました。

個人的にいちばん惹かれる花は、枯れた花や枯れかけた花、ドライフラワー、大輪の牡丹です。
写真を撮るまではそれほど花に興味がなく、綺麗だなあ、と思う程度でした。
ファインダー越しに花を見てはじめてとても魅力を感じました。
と同時に、デカダンスや!と気付きました。

タイトルのとおり、私は19世紀末の芸術に魅了されすぎたら世界が広がりました。
また、逆に言えば、好きなものはデカダンスの要素を含んでいるものばかりです。

「デカダンス(decadence)」はフランス語を語源とし、「(文化的)退廃」「(道徳的)堕落」といった意味合いを持ちますが、芸術においては、「耽美、唯美」といった、19世紀末前後の社会の傾向が反映された芸術思想を表すキーワードとして用いられます。
私が大好きなイギリスの世紀末においては、ヴィクトリア朝時代の光と影、繁栄と衰退、という二面性を持ち合わせた時代を芸術に反映させた芸術思想を「デカダンス」と呼びます。
その複雑性から、一見矛盾して見える芸術作品が、深いところで「デカダンス」として繋がっており、表面化したところでは分からない、というのが個人的な印象です。

かなりざっくりとした説明になりましたが、枯れた花や枯れかけた花、ドライフラワー、大輪の牡丹、という私の大好きな花のイメージ。
特に「枯れ」VS「牡丹」という一見繋がりが感じられないところに、「デカダンス」をキーワードに繋がりが存在しています。

そんな複雑なデカダンスですが、魅力がいっぱいです!
先ほども書きましたが、私自身は、ロンドンを中心としたイギリスの世紀末芸術が大好きです。
他国については皆無と言っていいほど無知です。
世紀末のロンドンというと、工業化も進み、万国博覧会もすでに開催され、ヴィクトリア朝の栄華を極め、いわゆる近代化がどんどん進んだ時代です。
芸術においては日本の鎖国が終わり、ジャポニズムと呼ばれる日本の浮世絵や着物、工芸品などの日本文化が輸出されました。
イギリスだけでなく、他の西洋の芸術にも大きな影響を及ぼしたことによって、その芸術にインスピレーションを与えたことも特徴のひとつです。
ロンドンには「日本人村」もできました。

浮世絵といえば、日本からの輸出品を浮世絵に包んで輸出したところ、日本人には見慣れた大衆文化として包装紙にされていたものが、西洋では「なんだこれは!!」と、とても魅力的に映ったそうです。
それが西洋芸術に影響を与えたという話が有名ですが、その包装紙…浮世絵が与えた影響は、かなりの威力でした。
浮世絵の特徴のひとつとして、S字型のシルエットが挙げられます。
Sの形には角や直線がなく、花のように、やさしくて優美な「女性らしさ」全開のイメージが西洋で芸術として、さらには日常的にも繋がっていくという、浮世絵のシルエットとSという文字のコラボの偉大さを感じずにはいられません。
男性で、スポーツカーが好きな人は、そこに無意識にSの字、つまり女性性を感じているらしく、古今東西共通なのかなあ、とぼんやり思います。

話をロンドンに戻すと、19世紀末の芸術思想であるデカダンスが生まれるまでの過程、19世紀後半にジャポニズムが流行し始めます。
ちょうど同じ頃、ロンドンで生まれたアバンギャルドな芸術家たちが活動を始め、世紀末のロンドンの社会の光や影がデカダンスという芸術に繋がっていきます。

ロンドンで生まれたアバンギャルドな芸術家というのは、ラファエル前派兄弟団と呼ばれる若い画家をはじめとする7人の集まりです。
彼らは、それまでの、ルネサンスを代表するイタリア出身画家、ラファエロ・サンティの絵画画法を規範とした絵画を正統としていたイギリス絵画に対し、異論を唱え、もっと自由でいいのではないか?とそれまでの絵画の常識を覆す試みをしました。
そのラファエル前派兄弟団を源流として、デカダンスへと繋がっていきます。

このように、イギリスにおけるデカダンスには、ラファエル前派兄弟団結成当時から世紀末の頃までの社会の様々な局面が、結果として芸術という形に昇華し、その中には日本文化の影響も少なからず存在すること等、とても多くの局面が相まって存在します。
「枯れ」VS「牡丹」という花にも、その要素が含まれているからこういった花が好きなのだなあ、とひとりでしみじみ感じています。
次回は、花とデカダンスについてより詳しくお話していきたいと思います。

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