しゃぼん玉

市原悦子さんの声だけで泣けてくる。映画「しゃぼん玉」

私の父方の祖母は亡くなる寸前までかつ丼をぺろりと食べるような大食漢でした。

近所に住んではいたもののあまり祖母と接することはなかったのですが、年に何回かは泊りに来ていました。
お菓子をたくさん持ってきてくれる優しいばあちゃんでしたよ。
お茶を飲みながら父の子供の頃の話を聞いたりするのが楽しかったです。
その時もご飯は必ずお代わりをしていました。

祖母は父の兄である叔父の家に同居しており、叔父の家には男の子が3人いたのでよく食べるのだろう、なんて父は納得できるような、できないようなことを言っていました。

大盛りのカレーもお代わりするんですよ。

祖父も祖母も教師だっただけに厳しかったようで、次男坊で破天荒な父はよく叱られたと言っていました。

毎年、冬になると祖母は手作りの半纏を父と私たちにくれるのですが、母には
「間に合わなかった」といい一度もあげたことがなかったそうです。
祖母が亡くなったあと、母から聞きました。

叔父の奥さんも同じく、叔父と息子たちの分しか作らなかったと言っていました。

嫁には厳しかったんですね。

祖父が亡くなってからは一人でハワイに行ったりゲートボールに夢中になったり充実した日々を送っていたようです。

大病を患うこともなく、足が悪くなってからは父の妹の叔母の下で暮らしていました

そして、寝込むことが多くなった87歳のある日、寝室で昼食のかつ丼大盛りを食べ、叔母が食器の片付けをしに行ったときには布団に横になったまま亡くなっていたようです。

まさに大往生。理想ですね。

さて、今回ご紹介する映画は「しゃぼん玉」です。



では、あらすじを簡単に

親の愛情を知らずに育ち、女性や老人だけを狙った通り魔や強盗傷害を繰り返してきた伊豆見翔人。
ある日、人を刺し、逃亡途中に迷い込んだ宮崎県の山深い椎葉村で、放置されていたバイクに乗っていこうとした伊豆見は、草むらで怪我をした老婆スマに声を掛けられます。
どうやらバイクはスマの物で山道を走っていて転倒したようです。
仕方なくスマを助けたことがきっかけで、いつしか伊豆見は彼女の家に寝泊まりするようになります。
初めは金を盗んで逃げるつもりだったのですが、伊豆見をスマの孫だと勘違いした村の人々に世話を焼かれたり、山仕事や祭りの準備を手伝わされるうちに、 伊豆見は逃げることが出来なくなります。
そして、伊豆見の荒んだ心に少しずつ変化が現れるようになり…。

作品情報

監督は東伸児さんです。テレビドラマ『相棒』の助監督として知られています。
彼の初監督作品が「しゃぼん玉」です。
この作品は直木賞作家である乃南アサさんの同名ベストセラー小説の映画化作品です。

主演の伊豆見を演じたのは林遣都さんです。
中学3年生の時、修学旅行で訪れた渋谷でスカウトされたようですよ。
2007年、映画『バッテリー』の主演で俳優デビュー。
身体能力が高いため、10代の頃はよくスポーツを題材とした作品に出演していたということです。
デビュー作も野球が題材ですね。

そして、老女スマを演じたのは市原悦子さん。2019年にお亡くなりになられましたが、この作品が最後の出演作品になりました。

疲れた心に一服

伊豆見が逃亡途中、山道でバイクを見つけた時、草むらから

「坊、坊…」

という呼ぶ声が…。

優し気なその声を聴いたとたん、涙腺崩壊してしまった。

市原悦子さんのあの声。「まんが日本昔ばなし」リアル世代の私にはとても刺さる。

物語は宮崎県に実際にある椎葉村が舞台です。
平家落人伝説のある山奥の山村の風景は、見ているだけでも目頭が熱くなるような郷愁を誘います。
そして、おいしそうな郷土料理の数々。
温かい人々。
もう絶対、どんな悪人でも心を洗われること間違いなし。

親の愛情を受けられずにいた伊豆見ですが、スマや村の人々、自然と触れ合い静かに過ごすことで、自分の犯してきた罪と必然的に向き合うようになっていきます。

その心境の変化を林遣都さんが繊細に演じています。

荒んだ心を癒してくれるのは温かくて静かな環境。帰れる場所があるということが生きる希望になるんですね。

ずっと市原悦子さんの語りを聞いていたい。
それだけで心がなんだか軽くなるような気がします。
疲れた心に効くやさしい漢方薬みたいな作品です。

【しゃぼん玉】
監督:東伸児
脚本:東伸児
原作:乃南アサ「しゃぼん玉」(新潮文庫刊)
出演者:林遣都
市原悦子
音楽:奈良悠樹
製作年:2017年
製作国:日本

※画像はAmazonより引用させていただきました

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