19世紀末の芸術に魅了されすぎたら世界が広がった☆the decadence☆ Vol.12【淑女のメイクアップ編】
皆さん、こんにちは。唐突ですが「好きな異性のタイプは?」と聞かれたらなんと答えますか。
男女問わず、何かしら「理想像」を持っている人は多いと思います。
しかしながら、その理想像を現実世界に持ち込むと「思っていたイメージと違った」「幻滅した」といった残念な結果になることはよくある話です。
逆に、相手が自分に対して理想像を作り、実際と違うと勝手に幻滅されたり…。
「理想像」を持つこと自体は楽しいし、良いことだと思いますが、どこかで現実との境界線を引くことも大切ですよね。
しかし!!
19世紀後半、ヴィクトリア朝時代のイギリスでは、中流階級の女性は男性によって振舞いから身繕いに至るまで「倫理観」、つまり「社会的ルール」という形で「理想像」の実行を強いられました。
単なる理想像ならばスルーできそうですが、「倫理観」という言葉で強要されると遵守せざるを得ません。
そしてそのルールが遵守されると、いつの間にかそれは「常識」となり、女性自身も違和感なく受け入れていた…のでしょうか。
どんな時代も抜け道や裏表というものがありますから、「違和感なく」ではないですよね、きっと。
今回は、そうした厳しい規律の中から「化粧」に関する規律についてお話したいと思います。
淑女は肌の美しさが必須
昭和時代の少女漫画に描かれている女性って、帽子をかぶっていて、その帽子や顔周りには花が散りばめられているイメージありませんか?
私はそれを見て「乙女!!って感じだけど、現実にはあり得ないわ(‘ω’)」と思っていました。
しかし、『レディーの赤面―ヴィクトリア朝社会と化粧文化』※という書籍に出会って、その「乙女」は現実に存在していたことを知りました。
ヴィクトリア朝時代のイギリスでは、中流階級の女性、つまり「淑女」たる者は「肌が美しく」なければなりませんでした。
当時の「肌の美しさ」は、顔色が青白く、頬が赤らんでおり、口元には赤みがあることでした。
しかも、今の時代なら、「病的」なまでの青白さ!!
しかし、頬は赤みが刺していなければならない。
頬の赤みは「純真無垢さ」、顔の青白さは「品のよさ」の表れであると考えられていました。
少女のような、無垢さゆえの恥じらいの感じられる頬の自然な「赤面」や、「か弱く、気絶しそうなほど儚く見える外見」が淑女の理想像でした。
しかしながら化粧品はNG!!
これが同じく中流階級の男性らが作ったルールでした。
どう考えても矛盾だらけでムリ…( ;∀;)
そんな風に思えてしまいますが、当時の淑女はそんなことは言っていられません。
更に、どれほど儚く見えたとしても、結婚し、子供を産み育て、家庭を守ることが彼女らの絶対的条件。
身体的にも精神的にも健康でなければ無理な話でした。
淑女らの身繕い
化粧品で顔色を整えずして青白い肌の色を、またバラ色のような血色の頬を本当の意味で「ナチュラル」に出すなんてムリ…。
おしろいもチークも口紅も禁止…。
そこで淑女らは他の方法で自身をメイクアップしました。
帽子や顔周り、ドレスやパラソルなど至る所に「ブラッシュ・ローズ」と呼ばれるバラなどの花を飾ることで頬の血色がよく見えるようにしました。
光によって、顔に色味を反射させる原理です。
これが、少女漫画で描かれる乙女の姿なのですね。
淑女らの努力はけなげで可愛らしく、本当に乙女だなぁと感じます。
© National Portrait Gallery, London
photo-shooting: David Octavius Hill, and Robert Adamson, 1843-1848
しかしながら、中には、自分の頬をつねったり、ビーツや赤色の虫など赤いものなら何でも頬に塗ったりする人もいました。
口紅の代わりには、フルーツや花、中には虫の血を塗っていた人もいました。
顔には化粧品の原料を直接塗ることで肌を青白く見せました。
目を美しく見せるためにレモンやオレンジの汁を目に落とすことさえあったとか。
毒性や痛みがあったとしても「理想の美」を目指す淑女らの姿は、現代人が美を求める姿と変わらなかったのかもしれませんね。
因みに、淑女に対して化粧品を禁じていた男性ら自身は化粧品を使っていたそうです。
理不尽すぎますね。
次回は、淑女のファッションの規律についてお話したいと思います。
[参考]
以下の記事を参考に書かせていただきました
https://www.thefashionfolks.com/blog/victorian-era-makeup/
以下の書籍を参考に記事を書かせていただきました
*書籍名:レディーの赤面―ヴィクトリア朝社会と化粧文化
著者:坂井妙子著
出版社:勁草書房
発行:2013年2月1日