読むとおいしいものが食べたくなり、そして丁寧に料理がしたくなる小説「東京すみっこごはん」成田名璃子著
私の母は、妹たちが成人を迎えたとき
「もう、食事は作らない。自分たちで何とかしなさい」
と言い、一切、キッチンに立たなくなりました。
それからは元々料理が好きな次女がほとんどの食事を作っています。
しかし、今でもたまに母親の味が恋しくなります。
母親も極端な人で、私が高校生の頃、お弁当に入っていたちくわの煮たものが好きだと言ったら、ほぼ毎日入れてくれるのです。
流石に飽きて、友人に貰ったシメジのバター醤油炒めがおいしかったと言ったら次の日からはそれを毎日。
愛情表現が苦手な母から娘への最大限の思いやりだったのでしょう。
と、息子の弁当を作るようになって感じています。「おいしい!」と言ってくれたものを入れてあげたいって気持ちですね。
さて今回ご紹介する小説は「東京すみっこごはん」です。
ではあらすじを簡単に。
~イジメに悩む女子高生の楓はある日、隣駅の町で「すみっこごはん」という看板を掲げているお店を発見します。商店街の脇道に佇む古ぼけた一軒屋は、年齢も職業も異なる人々が集い、手作りの料理を共に食べる“共同台所”だったのです。そこには、婚活に励むOL、人生を見失ったタイ人、妻への秘密を抱えたアラ還
の公務員、プロの料理人、世話焼きの主婦、口の悪いいかついおじさんなどワケありの人々が集まってきます。くじで当たりを引いた人がその日の料理当番で、レシピノートから好きなメニューを選んで作ります。楓は迷いながらも「すみっこごはん」に通うようになるのですが…。
作者の成田名璃子さんは2011年「やまびこのいる窓」が第18回電撃小説大賞〈メディアワークス文庫賞〉を受賞。翌年、受賞作を改稿・改題した『月だけが、私のしていることを見おろしていた。』(メディアワークス文庫)で作家デビューしました。
もともとコピーライターとして会社勤めをしていたそうです。
作家デビュー後に退社し、現在はフリーのコピーライターとしてもご活躍のようですよ。
さて、この作品は登場人物それぞれの視点で書かれた4篇の短編になっています。
あらすじだけを見るとほのぼのとした雰囲気が感じられますが、女子高生の楓が受ける陰湿で凄惨ないじめや、タイ人留学生が住むホストファミリー親子の歪な関係性など深刻な問題も描かれていたりと、少しほろ苦さもあります。
各自が抱えている問題が結構シビアなんですね。
それだけに「すみっこごはん」は登場人物たちの帰る場所、居場所として重要な位置にあります。
そこに行けば誰かが迎えてくれて笑顔で一緒に食事ができる。
それだけで自分の問題は問題として変わらずとも、ほんの少し心に余裕が出来るのかもしれませんね。
本当にあったら素敵だな。
きっと通っちゃうだろうな。
「食べる」ことは「生きる」ことに必要なことです。
現代に生きる私たちの環境はとても便利になっており、お腹が空いたら冷凍食品を電子レンジでチンしたり、私の住む田舎町にはありませんが、都会ではウーバーイーツなんて頼めたり、自分の手を煩わせることなく簡単に食事をすることが出来ます。
でも、この作品を読むと
「誰かのために料理をすること」
「誰かと一緒に食べること」
はとても大切なことなんだなと感じます。
すみっこごはんに通ってくる人たちは皆他人同士ですが、誰かが作る食事を一緒に食べることで暖かな繋がりを築いています。
お家で過ごす時間がいつもより多くなってきているこんな時こそ、まずは楓のように出汁から味噌汁を作ること、やってみるのもいいかもしれませんね。
一人暮らしの方だって自分のために料理をすることはできます。
自分の身体が喜ぶお料理作ってみませんか?
読むとおいしいものが食べたくなり、そして丁寧に料理がしたくなる、そんな作品です。
東京すみっこごはん
著者:成田名璃子
出版社:光文社
発行:2015年8月6日
※画像はAmazonより引用させていただきました