小説「おばちゃまは飛び入りスパイ」ドロシー・ギルマン著 柳沢由実子訳
7年前、私は職業訓練校に通っていました。
目的はパソコンスキルを身に付けること。
当時ハマっていた海外ドラマ「クリミナルマインド」で、ハッカーでありながらFBIに採用され活躍しているペネロープという登場人物に憧れていたのがきっかけです。
パソコンを意のままに扱える自由奔放で頭脳明晰な彼女、カッコいいんですよ。
訓練も終盤に差し掛かった頃、先生に
「はらさんは何の仕事に就きたいの?」と聞かれ
「FBIでハッカーをしたいです」と答えました。
真顔で。
「じゃあ、長官に募集しているか、聞いてみますね」と私のおふざけに乗ってくれた先生、あの時はすいませんでした。
さて今回ご紹介する作品はドロシー・ギルマンの
「おばちゃまは飛び入りスパイ」です。
FBIではなくCIAのお話です。
では、あらすじを簡単に。
~ミセス・ポリファックスは60歳の未亡人。
地域のガーデニングクラブの役員を務め、病院ではボランティアをしています。
アメリカにいるごく一般的なおばちゃま。
2人の子供たちもそれぞれ自立し、悠々自適な生活を送ってはいるものの、好奇心旺盛な彼女はなんだか退屈。
そこで、彼女はずっと憧れていた「スパイ」になろうと、CIAに自分を売り込みに行きます。
門前払いのはずだったのですが、ひょんなことがきっかけでミセス・ポリファックスにスパイのオファーが来ます。
「メキシコの本屋で観光客を装って本を購入するだけです。あとはご自由に」
記念すべき初任務。
意気揚々とメキシコへ向かったはずが、目が覚めたミセス・ポリファックスがいた場所は………。
CIAは映画やドラマでよく耳にしますよね。
Central Intelligence Agencyの略称で日本語では中央情報局と訳されます。
外国での諜報活動を行うアメリカの情報機関です。
ちなみにイギリスはM16。
007で有名ですね。
この作品の初版は1966年。
アメリカとソ連の冷戦真っ盛りの頃です。
諜報活動も現在よりも盛んに行われていた時代ですね。
そんなところにミセス・ポリファックスは題名通り飛び入りで志願するのです。
志願するときのミセス・ポリファックスのアピールポイントが秀逸です。
セリフをそのまま載せたいのですが、長いので要約して箇条書きにしてみますね。
1.ボランティアでいい。
2.身寄りがない。借金もない。
3.とにかく人柄がいい。
4.子供を立派に育て上げた。
5.家庭を営んできた。
6.車を運転できる。
7.応急処置ができる。
8.血を見ても気絶しない。
など積極的に自分を雇うメリットをアピールします。
口調で言うと黒柳徹子さんのような品のある口調です。
「わたくしのメリットと言ったら、人柄ですわね。わたくしたちの年代になると人柄がすべてと言っていいくらい」という感じ。
これを自己PR風に変換すると
1.収入にこだわりはない。
2.自由に動ける。
3.協調性がある。
4.人材育成が出来る。
5.リーダーシップ力、マネジメント能力がある。
6.活動範囲が広い
7.柔軟な対応ができる。
8.冷静な対応ができる。
うん、素晴らしい人材です。
何よりおばちゃま、とても可愛いんですよ。
上品でチャーミングで好奇心旺盛なミセス・ポリファックスはベテランの同僚スパイや敵国のスパイさえも魅了します。
本当に彼女の“人柄”が本領発揮されるのです。
物語を読み進めていくうちに読者である私たちも彼女の魅力に引き寄せられます。
「こんな女性になりたい!」と思わせてくれる、私の中では師匠と言っていいレベル。
ポジティブで諦めない姿勢は勇気をもらえます。
現実にはありえない設定だと思いますが、コメディタッチでとにかく楽しめる作品です。
本格的なスパイ小説としてもきちんと成り立っていますのでハラハラドキドキする展開に期待してください。
おばちゃまは飛び入りスパイ
著者:ドロシー ギルマン
翻訳:柳沢 由実子
出版社:集英社
発行:1988年12月15日
注:残念なことに現在は絶版になっているようです。
Amazonなどでは中古で入手できます。
※画像はAmazonから引用させていただきました