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情念や執念を緻密に描くことで表情まで浮かびあがらせてしまう作者の力量が素晴らしい小説「桜雨」坂東眞砂子著

「付き合ってはいけない男性の3B」をご存知ですか?
数年前になりますが、友人との呑みの席にてその話題で盛り上がりました。
3Bとは

・バンドマン
・美容師
・バーテンダー

だったかな?
付き合うと間違いなく苦労するらしいです。

結局その話題は
「私たちは彼らの範疇にはないよね」(年齢的に)
ということで終わりました。
いや、正確にいうと終わらせたのです。
私が。

だって、20代前半の頃、美容師に4股されたんだもん。
黒歴史ですよ。
でもね、イケメンだったんです。

さて今回ご紹介するのは坂東眞砂子著「桜雨」です。

では簡単にあらすじを。

~東京の小さな出版社に勤める額田彩子は、幻想絵画集の出版準備を進める中、一枚の絵に出会います。闇の中に立ち上がる炎、火花と共に舞い散る桜の花びら、描かれた2人の女――。一瞬でその絵に魅せられ、その絵の謎を追う彩子の前に、当時を知っているというひとりの老女が現れます。戦前の芸術村・池袋モンパルナスで生きた放縦な画家・西游と、彼を愛した早夜と美紗江の凄絶な日々。現代に生きる彩子と戦前から戦後を生き抜いた2人の女たちの運命が交差していくその先は?~

作者は坂東眞砂子さん。
この作品で1996年第3回島清恋愛文学賞を受賞しています。
同年「山妣」(やまはは)で第116回直木賞も受賞しました。

彼女は児童向けのファンタジー小説でデビュー後、一般小説に転向しました。
初の一般小説は映画化もされた「死国」です。
黄泉の国から蘇る役を演じた、まだ15歳だった栗山千明さんの神秘的な美しさが印象に残っています。
ジャンルとしてはホラーですね。
「死国」は「四国八十八箇所」の遍路、「山妣」は豪雪地帯と、土着的な因習を背景に、「生」と「性」そして「死」をテーマにしています。
おどろおどろしくも哀愁漂う作品の世界観に魅了され30代の頃夢中で貪り読みました。

さて、本題の「桜雨」
この作品は東京が舞台です。
池袋モンパルナスとは1930年代に豊島区要町、長崎、千早を中心に点在した若い芸術家向けのアトリエ付き貸家群の事です。
アトリエ村ともよばれていたようですね。
浪漫の香りが漂っています。

物語は現代と戦前、戦後の時間軸が交互しながら進んでいきます。
出版社に勤務する彩子は恋人と別れ1人アパートに引っ越します。
この恋人が自分勝手なのです。
ダメンズです。
そして遠い昔、早夜と美沙江が振り回された男、画家の榊原西游。
この男は「生活力は全くない、女好き、でも自分の絵に対しては一切妥協を許さない」といった究極の自己中男。
男である前に自分は芸術家だと言い放つ。
3B以上のものすごいダメンズですね。

しかし、こんな男でも魅力的に描いてしまうのは作者の描写力なんですね。
だからこそ2人の若き女性が夢中になってしまうのね…
と納得させられてしまいます。

芸術に対して信念を貫き通す男に2人の女性は翻弄されます。

終盤、空襲で焼け出された西游と美紗江は早夜の元で一緒に暮らし始めます。
絶対にうまくいくことはなく、破滅の予感しかしない3人の関係性。

嫉妬と情念「どうしても離れがたい」というのはもう執念の域ですよね。
演歌「天城越え」の世界観に似ているような気がします。

こんな恋愛を経験してしまったら多分、もう普通には戻れないのではないかと思ってしまいます。

情念や執念という登場人物の心理を緻密に描くことで、表情まで浮かびあがらせてしまう作者の力量は素晴らしい。
けど恐ろしい。

読み進めていくうちに少々ぐったりしてしまう方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、其処に張り巡らされた伏線が最後にはしっかり回収されていくので、読後はなぜかすっきりした気分を味わえます。
(少々驚かされますけどね)

桜雨
著者:坂東眞砂子
出版社:集英社
発行:1995年

※画像はAmazonより引用させていただきました

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