郷愁を誘うダークファンタジー 小説「夜宵」柴村仁著 講談社文庫

2月の半ばくらいだったでしょうか、夜10時を過ぎた頃、突然、部屋が真っ暗になりました。

我が家は、夏場、各部屋でエアコンをフル稼働させている時に電子レンジやドライヤーを使うと度々、ブレイカーが落ちて暗くなるのですが、冬場は大丈夫なはずです。
「なんだ?」
ふと、カーテンを開けて窓から外を眺めると周囲は闇に包まれています。
どうやら近隣すべて停電している様子。

田舎なので夜間はそれほど明るくはないのですが、それでも民家の灯り、自販機の灯りなどが夜を照らしていたのだなと改めて思いました。

灯りのない夜はなんと暗いことか…。
星も月も隠れていたので本当に暗い…。
今にも山から何やら人ならぬものが下りてきそうな感じ…。

ゾクッとして、カーテンを閉めたとたん、電気がつきました。
夜は好きなのですが、闇夜は怖いな…。

さて、今回ご紹介する小説は「夜宵」(やよい)です。



では、あらすじを簡単に

湖の小島で大晦日までの僅かな期間にだけ立つ「細蟹(ささがに)の市」。
そこで手に入らないものはないといいます。
国宝級のお宝、非合法なモノ、なんでもそろっているのです。
ある者は薬を求め、ある者は行方不明の少女を探すため、そして、ある者はこの世ならぬ色を求め、細蟹の市へと迷い込むのです。
人なのか、人ならぬ者なのか、皆が異形の面をつけています。
市守りの赤腹衆、サザが助けたのは記憶を喪った身元不明の少年、カンナ。
燃えるような赤い髪をしたカンナはこの市に来るまでの記憶をすべて失っていました。

作家情報

作者は柴村仁さんです。
2003年第10回電撃ゲーム小説大賞金賞を受賞し、受賞作の『我が家のお稲荷さま。』でデビューします。
ジャンルはライトノベル、ファンタジーになります。
『我が家のお稲荷さま』はシリーズ化され、7巻まで刊行されています。
他作品に『プシュケの涙』をはじめとした由良シリーズ、キソ会長シリーズがあります。
心が切なくなる日常系ファンタジーを得意としています。

郷愁を誘う

細蟹の市が立つのは夜宵ヶ淵(やよいがふち)という名の湖に浮かぶ小島です。
船を除けば、石骨地区のはずれの古い浮橋からしか行き来出来ません。
日が落ちる頃に市は開かれ日が昇ると市は締まります。
電気も通っていないのであちらこちらに篝火がともっています。
怪しいお面をかぶった人、あるいは人でないものが跋扈しています。
市に行くとなんでもそろっていますが、ひどい目にあわされ、2度と帰ってはこないお客もいます。
なんだか、とても魅力的なのですが、やっぱり怖いですね。
“細蟹”とは古い言葉で蜘蛛を表す言葉だそうです。
本作は短編の連作小説ですが、1話目の“チョコレートスープ”は女の嫉妬が引き起こすホラー味溢れる作品で、市の不気味で危険な面が良くわかります。
続く2話目からは記憶喪失になってしまったカンナと市守りのサザの話になります。
サザとカンナのお話は優しくて懐かしくて少し切ない…。
以降はカンナ目線で話が続きます。
カンナと森で出会った少女まこととの交流、細蟹の市の主、細蟹様の秘密…。
物語が進むにつれ蜘蛛の糸のように張り巡らされた伏線が回収されます。
そして、謎の男、ナキの出現で物語は一気に思わぬ展開を見せエンディングを迎えます。まさにどんでん返しってこういうことか…。
本当に思ってもいなかった展開に、文章を何度も読み返してしまった。
ダークで妖しい世界観に魅了され、一気に読みました。
和風ホラーが好きな人はハマると思いますよ。
続編も2冊あるようなので読んでみようと思います。

夜宵
著者:柴村仁
出版社:講談社
発行:2013年10月16日

※画像はAmazonより引用させていただきました

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