• HOME
  • ブログ
  • 書籍
  • さなぎは夜にゆっくりと膨らんでいく 小説「よるのふくらみ」窪美澄著 新潮文庫

さなぎは夜にゆっくりと膨らんでいく 小説「よるのふくらみ」窪美澄著 新潮文庫

私が子供時代を過ごした場所は新興住宅地で、ちょっとした日用品とお菓子などを売っている小さなお店が1軒しかありませんでした。
そのため、食材などは自転車で15分くらいの隣町のスーパーに買いに行くか、バスに乗って市役所のある町に買いに行くしかありません。
なので、当時はテレビなどで見る商店街のある町に憧れていたな。
けれど、買い物に行く町中のお店は、屋根付きの施設の中に八百屋さん、おもちゃ屋さん、レコード屋さん、衣料品店などがあったのでそこが商店街と言えばそうなのかも。そういえば、施設の入り口には「ショッピングセンター」とあったように思います。
そこに行くと、なんだかワクワクしていろんなお店を見て歩いたっけ。
末の妹はテンションが上がり過ぎて私と次女を追いかけまわし、挙句、どこかに頭をぶつけ…。すごい音がしてビックリ。
ですが、まだ追いかけてくるのです。
私と次女が真剣に怖がり、逃げ回るのが面白かったのでしょう。
だって、逃げるよ。出っ張ったオデコからダラダラと血を流しているんだもの。
怖いよ。
「ね、血、でてるよ!」
と私が言った後、オデコを確認した妹は、大声で泣き始めました。
あれから、しばらく、買い物には連れて行ってもらえなかった。
今でも建物は残っており、その前を通るたびにあの時の妹の血だらけの顔を思い出します。
さて、今回ご紹介する小説は窪美澄さんの「よるのふくらみ」です。
商店街で生まれ育った兄妹と一人の女性のお話です。



では、あらすじを簡単に

同じ商店街で幼馴染として育ったみひろと、圭祐、裕太の兄弟。
みひろは圭祐と現在、同棲しています。いずれ、結婚もするでしょう。
しかし、2人は長い間、セックスレスが続いています。
みひろはそのことに悩むのですが、そんな悩みをもつ自分が母親のように「いんらんおんな」なのかもしれないと思うと自分にたいして嫌悪感を抱いてしまいます。
みひろに惹かれている裕太は2人が上手くいっていないことに気づきます。
ある夜、みひろは抑えきれない情動を裕太の身体にぶつけます。
3人の思いは交錯し、そして…。

作家情報

作者は窪美澄さんです。1965年生まれ、東京都出身です。
短大を中退後、様々な職業を経て、広告制作会社に勤務します。
そして、フリーの編集ライターに。
2009年、「ミクマリ」で女による女のためのR-18文学大賞を受賞します。
受賞作も掲載された連作長編「ふがいない僕は空を見た」は2011年本屋大賞第2位に選ばれました。
また、同作はタナダユキ監督により映画化もされています。
他作品に「晴天の迷いクジラ」(2012年)、「アニバーサリー」(2013年)、「水やりはいつも深夜だけど」(2014年)などがあります。

近すぎて疲れる

みひろは排卵期になると激しく欲情します。
そんな自分を嫌悪してしまいます。
それは母親のせいでもあるのでしょう。
みひろの母は彼女が中学に入った時に一回りも年下の男の元へ行ってしまいました。しかし、3年間その男と暮らした後、しれっと家に戻って来たのです。
みひろと圭祐、裕太兄弟は商店街で育ちました。
母のことは商店街の誰もが知っています。皆、興味を持ちながらもみひろ親子を見守ってくれたのです。
しかし、子供たちはストレートです。
「お前のかあちゃんいんらんおんな」と言ってくるのです。
きっと、周りの大人たちが言っているのでしょう。こどもは聞いたことをそのまま言ったのでしょう。
誰もが近くてなんでも詮索し知りたがる。少しでも何か起こすと噂される。
けれど、何かあった時は支え合う。そんな環境で育った3人は上手く自分の気持ちを伝えることが苦手です。
それぞれがもう少し言いたいことを言い合えたなら、また違っていたのでしょう。
3人とも誰かに特別に思われたくて自分を偽る。
変に気を遣ったせいでややこしくなる…。近くにいる人には返って気を遣ってしまう…。なんだかわかる。とてもよくわかります。
うん、やたらと人間臭くて愛しくなる登場人物たちです。
章ごとに視点が変わり、それぞれの心情が丁寧に、そして時に温度や匂い、湿りを感じるような生々しさを伴って描かれています。
そして、しっくり収まる感じで終わっていくのがなんだかホッコリとさせられました。

よるのふくらみ
著者:窪美澄
出版社:新潮社
発行:2016年10月1日

※画像はAmazonより引用させていただきました

関連記事一覧