
超人的な嗅覚を持つ哀しい殺人鬼のお話 映画「パフューム ある人殺しの物語」
毒
バブル全盛期に「プアゾン」という香水が大流行しました。
濃厚な甘さとスパイシーさが混ざったセクシーな香りが場所も時間も選ばずそこら中に漂っていました。
流行りに乗っかりがちな私も、もちろん持っていましたよ。
しかし、強すぎる匂いと絶対に誰かと被るので使ったのは数回だけでした。
友人のオノダ(仮)もプアゾンの愛用者でした。
すべてのパーツがデフォルメされたように大きい派手な顔立ちの美人さんです。
唯一の欠点は足が臭いこと。
これが半端じゃない。
匂いを嗅いだ猫が咳き込むほど。
例えれば、強めの納豆臭です。
なので、彼女は靴を脱ぐ飲み会には絶対参加しませんでした。
そんな彼女を含めた数人と北海道に旅行に行ったときのこと。
レンタカーを借りて移動していました。
そろそろ宿泊先に着くという頃。
1日中観光地を廻り疲れたのでしょう。
彼女が靴を脱いだのです。
途端に車中に漂う強めの納豆臭。
「ちょっと、臭うよ」
「あ、ごめん。疲れちゃってさ。じゃあこうすればOK?」
彼女はバックから小さなアトマイザーを取り出すと足に向けて「シュッ」とひとふき。
「!!!」
濃厚なプアゾンの匂いと彼女の足の臭いが化学反応を起こして、それまでの人生で嗅いだことのない悪臭が車内に満ちた挙句…。
吐きましたよ。
市場で食べた海鮮丼。
その後、プアゾンを嗅ぐたびにあの日を思いだすのでそのまま封印しました。
まさに「毒」でした。
さて、今回ご紹介する映画は「パフューム ある人殺しの物語」です。
18世紀のパリの町の悪臭とオノダの足、どちらが臭いんだろう?
では、あらすじを簡単に
18世紀のフランス・パリ。
悪臭漂う魚市場で、1人の赤子が産み落とされます。
身寄りがなく孤児院で育てられたその男児はジャン=バティスト・グルヌイユと名付けられます。
生まれながらにして数キロ先の匂いをも感じ取れるほどの超人的な嗅覚を持っていたため、彼は気味悪がられながら育ちます。
成長したグルヌイユはある日、街で素晴らしい香りに出合い、その香りを辿って1人の美しい赤毛の少女を見つけ出します
少女の体臭にこの上ない心地よさを覚えるグルヌイユ。
しかし、誤ってその少女を殺害してしまうのです。
永遠に失われてしまった、少女の香り。
その香りを忘れられないグルヌイユは、少女の香りを再現しようと考え、執着し始めます。
かつて人気のあったイタリア人の調香師バルディーニに弟子入りし、香水の製法を学び、同時にその天才的な嗅覚を生かして新たな香水を考え、バルディーニの店に再び客を呼び戻すまでは良かったのですが…
なんと、連続殺人に手を染めていくのです。
作品情報
監督はトム・ティクヴァです。
ドイツ出身で脚本家・映画プロデューサーとしても活動しています。
代表作に『ラン・ローラ・ラン』(1998年)『クラウド アトラス』(2012年)などがあります。
主演はベン・ウィショーです。
イギリス出身で、ダニエル・クレイグの「007」シリーズのQ役を演じていますね。
脇を固めるのはダスティン・ホフマン、アラン・リックマンです。
悪臭に満ちた世界がリアル
冒頭、グルヌイユが魚市場で産み落とされるシーンは(18世紀のパリがものすごく汚かったということは聞いていましたが)リアルすぎて吐き気を覚えるレベルです。
そんな中で産み落とされたグルヌイユは、幸か不幸か超人的な嗅覚を持っています。
彼が求めたのは誤って殺してしまった少女の身体から発せられた体臭です。
生まれてから愛されたことがない彼は愛を知りません。
狂おしいまでに追い求めた匂いを再現させるために彼は次々と殺人を犯します。
奪われるだけの人生だった彼は他に手段を考えることはしません。
無表情で殺人を犯す彼の姿は恐ろしいのだけれど、純粋で無垢な子供のようなべベン・ウィショーのまなざしが悲哀を感じさせます。
唯一の救いは師匠であるバルディーニとの香水作りのシーン。
楽しそうで可愛かった。
バルディーニがもう少し彼を理解し導いてあげられていたらと思うと切なくなります。
映像では伝えることが難しい“匂い”を、古い絵画を思わせる色遣いと、ベルリン・フィルハーモニーが奏でる重厚な音で想像力を掻き立てる手助けをしてくれます。
官能的で情緒的な余韻を感じる映画です。
【パフューム ある人殺しの物語】
監督:トム・ティクヴァ
脚本:トム・ティクヴァ
アンドリュー・バーキン
ベルント・アイヒンガー
原作:パトリック・ジュースキント『香水 ある人殺しの物語』
出演者:ベン・ウィショー
ダスティン・ホフマン
アラン・リックマン
レイチェル・ハード=ウッド
ナレーション:ジョン・ハート
製作年:2006年
製作国:ドイツ・フランス・スペイン
※画像はAmazonより引用させていただきました