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ミステリー小説「姑獲鳥の夏」京極夏彦 姑獲鳥で始まり姑獲鳥で終わるひと夏の物語

「ぼくのなつやすみ」

私は夏が嫌いです。
なぜならば暑いから。
太陽が苦手なんです。
梅雨時のちょうど今くらいか、秋が好きです。

でも、夏の空気を感じるとなぜだかとても懐かしい気分になる不思議。

「思い出」と呼べるものも夏が多いからかな?

そんな私が夏になると思い出すのが「ぼくのなつやすみ」です。
「ぼくのなつやすみ」はソニー・コンピュータエンタテインメントから発売されている、夏休みをテーマとしたアドベンチャーゲームのシリーズです。

内容は、母親が臨月を迎えたため田舎の親戚の家へ預けられた9歳の「ボク」が、夏休みの1ヶ月間、昆虫採集や虫相撲、魚釣りなどをしていくゲームです。
朝のラジオ体操から1日が始まり、思い切り遊び、1日の終わりに絵日記をつけるという感じで進みます。

1975年(昭和50年)が舞台なので私が実際に小学生だったころと重なり、もう懐かしさ全開なんですよ。
使われている環境音が本物なのもいいんです。
蝉の声とかね。
そして、音楽。
井上陽水さんの「少年時代」がより郷愁を誘います。

息子が小学校低学年の頃までは毎年夏になるとやっていたのですが、ゲーム機を息子に占領されてからはやっていないな…。
やりたいな。

ゲームができないので、その代わり夏になると読む本があります。
それが今回ご紹介する小説「姑獲鳥の夏」です。

あらすじ

梅雨も明けようという夏のある日、関口巽は、古本屋にして陰陽師(おんみょうじ)の「京極堂」こと中禅寺秋彦の家を訪ねます。
関口は最近耳にした久遠寺家にまつわる奇怪な噂について、京極堂ならば真相を解き明かすことができるのではないかと考えていたのです。
「二十箇月もの間子供を身籠っていることができると思うか」と切り出す関口に、京極堂は驚く様子もなく「この世には不思議なことなど何もないのだよ」と返します。
久遠寺梗子の夫で、関口の先輩である牧朗の失踪、連続して発生した嬰児死亡、「憑物筋の呪い」など、久遠寺家にまつわる数々の事件。
人の記憶を視ることができる超能力探偵・榎木津や京極堂の妹である編集記者・敦子、東京警視庁の刑事・木場らを巻き込みながら、事態は展開していきます。
さらにこの事件は、関口自身の過去とも深く関係しているのです。
関口に懇願された京極堂は久遠寺家に巣食う『姑獲鳥の呪い』を祓うべく、憑物落としに臨みます。

作者情報

作者は京極夏彦さんです。
妖怪研究家、グラフィックデザイナー、アートディレクターとしても活躍されている非常に多才な人物です。
昨年からは日本推理作家協会理事長も務めていらっしゃいます。

「姑獲鳥の夏」は彼の代表作と言われている『百鬼夜行シリーズ』の1作目にしてデビュー作品でもあります。

仕事の合間の暇つぶしに描かれたものであり、軽い気持ちで「講談社ノベルス」に持ち込んだ作品のようですよ。
小説の執筆も初めてだったということです。

2003年には『後巷説百物語』で第130回直木三十五賞受賞をしています。

『百鬼夜行シリーズ』はタイトルに必ず妖怪の名が入っています。
第二次世界大戦の戦中・戦後の日本を舞台とした推理小説で、民俗的世界観をミステリーの中に構築している点が特徴です。

共感ではなく同化する

さて、物語の語り部となるのは今作の中心人物である小説家の関口巽です。
彼は学生時代からの鬱病に悩まされ、現在も完治には至っていません。
おまけに臆病で対人恐怖症というコンプレックスの塊です。
しかも自己愛もやや強めという厄介な生き辛さを抱えた人物です。
関口君に共感は出来ないけれど一緒に困惑し、おろおろしてしまう不思議な感覚。
怪異な事件に引き寄せられ、600頁もあるのに読むことを途中でやめられません。

京極堂が語る民俗学、心理学、物理学など様々な知識は蘊蓄と捉えられがちですが(実際長いし…)それらが貼られた伏線とピッタリ合った時の爽快感!
1000ピースのパズルをやり終えたより気持ちがいいです。
しかし、その膨大な知識が作者の知識だと思うとなんという才能の塊!

古めかしい文体に合った奇妙で混沌とした世界観と魅力的な登場人物によって、単なる謎解きミステリーには収まらない、茹だるような夏の眩暈を思わせる作品となっています。

姑獲鳥の夏
著者:京極夏彦
出版社:講談社
発行:1994年08月31日

※画像は「講談社BOOK倶楽部」より引用させていただきました

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