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小説『ブラームスはお好き』フランソワーズ・サガン著 大人の女性だけが真に味わえる小説です

随分昔の作品(初版発行は1959年!)ですが、この洒落た本のタイトルを耳にした事はありますか?
39歳の自立した女性に、25歳の美しい青年があの手この手の誘いをかけて、ようやくデートに誘い出せたセリフが、この「ブラームスはお好きですか?」なのです。

『ブラームスはお好き』を知らなくても『悲しみよ こんにちは』の題名でピンと来る方もいるのではないでしょうか。
この作品は、フランスの女流作家サガンの代表作の一つです。
『悲しみよ こんにちは』は、18歳の少女の繊細な心を瑞々しく描いた素晴らしい名作です。
けれど、大人の女性に是非おすすめしたいのは『ブラームスはお好き』
断然こちらです!

女性はなぜ年をとることが億劫に感じるのでしょう。
年を重ねることは決して悲しい事ではないですし、大人の女性になったからこそ出来る事。
出来るようになった事。
楽しく過ごせるようになった事もたくさんあるはずですよね。
若い頃に思っていたよりも、年を重ねた今の方が人生はとても楽しい!

けれど……、ふと思い出すとても若かった時の事。
なんだか切ない思いで昔を振り返る時もある。
女性はみんな少し矛盾した心を抱えていて、そしてロマンチストで繊細な心を隠し持っているものです。

『ブラームスはお好き』の主人公のポールも、皆さんと同じ。
そんな気持ちを隠し持った女性の一人です。
39歳の彼女はまさに大人の女性。
仕事は自営業でとっても知的。
少し年上の彼がいますが、その彼の浮気だって笑い話として流してあげる事ができます。
二人の間には、お互いでなければダメだという、確かな想いがあるからです。
だから、ええ。
もちろん。
彼が何度浮気をしたって大丈夫。

……。
そうです。もちろん大丈夫な訳がありませんよね。
ポールは孤独に苛まれて苦悩しています。
大人の女性だからこそ、弱みを容易く見せられない。
そんな苦しみでもありました。

そうした生活に現れたのが、まるで絵画のように美しい25歳の青年シモンでした。
しかも彼は年の差なんて全く気にせず、ポールに熱烈に恋をします。

どうでしょう。
魅力的で、まだ世間を良く知らない若くて美しい青年。
心が揺れるでしょうか。

理性的なポールはシモンの恋心を拒みます。
だって断る理由の方が多すぎるくらいなんだもの!
愛する彼がいる。
シモンは若すぎる。
シモンは世間を知らない。
もしシモンを恋人にしたら、世間になんて言われるだろう……。

愛する彼の数々の浮気に疲れた孤独で寂しい女性に、繊細な心を持った、若く美しい青年が熱烈に求愛する。
シュチェーション的には完璧です。

世間の目なんてなんのその。
全く気にせずハッピーエンド。
二人はいつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
もしそんなラストがお好きなら、読まない方が良いかもしれません。

けれど社会に出て、荒波をもがきながら渡っている女性たちは、夢も見ながら現実も知っています。
だからこそ、二人の男性に苦悩しながら揺れるポールが、どのような内心で最後のセリフを叫んだのかを見届けてあげてください。

この小説は、ハッピーエンドではないと私は思っています。
ですが、微妙な年齢に揺れ動く倦怠感や情熱。
愛情の行き先。
ブラームスの調べに乗って、窓の外にはパリの街並みが広がっているのだと感じながら読んで頂きたい一冊です。

ちなみにこの作品は1961年に『さよならをもう一度』という題名で映画化されました。
(やっぱり原題の『ブラームスはお好き』の方がお洒落ですね)
白黒の画面の中で、ブラームスの交響曲第3番第3楽章がアレンジを変えながら様々な場面で甘く流れます。
興味はあるけれど時間がなくて小説をゆっくり読めない方には、映画もとてもおすすめです。
少しだけ時を止めて、サガンの世界に浸ってみてはいかがでしょうか。

ブラームスはお好き
著者:フランソワーズ・サガン
翻訳:朝吹登水子
出版社:新潮社
発行:1961年5月12日

※画像はAmazonより引用しました

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