軌跡としての不妊治療-前編
女性にとって大事なイベントに妊娠・出産があります。
ですが、「赤ちゃんが欲しい!」と思ったタイミングで自然妊娠を成立させるのは大変難しいことです。
初婚年齢は年々上がっていますし、仕事との兼ね合いなどでなかなかスムーズにはいきませんよね。
結婚が40歳と遅かった私は、当然のように最初から不妊治療を視野に入れていました。
今も継続して治療中です。
コロナ禍での不妊治療、40歳を過ぎてからの妊活、フランスと日本の医療制度の違いなどなど、現代女性にとって気になる情報を経験談としてコラムにまとめてみました。
少しでも皆さまの励みになれば嬉しいです。
青天の霹靂とはこのこと
私とフランス人夫の年齢差は12歳です。(私が年上です)
まず、その時点で不妊に原因があるとしたら私、と決めつけていました。
「不妊治療を始めよう」「私には時間がない」と急かすも、年若い夫はどこか他人事。
夫婦間で「不妊治療」に対する温度差がだいぶありました。
妊娠・出産は女性にしかできなくても、子供を成すことは夫婦二人の共同作業です。
こういう話題を避ける男性は世界共通だな。。。と思いつつ、初めてパリの不妊治療クリニックの門を叩いたのが2020年6月のことです。
フランスの場合、まず不妊治療を開始するにあたり、夫婦二人の検査が同時に義務付けられています。
数種類の検査を経て、私は子宮内膜にポリープが見つかったものの、すぐに除去できるものなのでこれといった問題はなし。
夫の方は精液検査と血液検査の二つだけでした。
そして待つこと一週間。
なんと、男性不妊が発覚したのです。
精子が一般男性の1%しかなく、「自然妊娠はほぼ不可能」とドクターに告げられた時、夫はまるで世界に一人だけ取り残されたような顔をしていました。
まだ若く、酒も煙草もやらず、運動も欠かさない青年にこの仕打ちはいくらなんでも不公平すぎる。。。と私も真っ青に。
「青天の霹靂」とはまさにこのことです。
ドクターが言うには、男性不妊が世界的に急増しているんだとか。
さらに遺伝的なものは関係ないそうで、原因として「まだ定かではないが、もしかしたら食品添加物、加工食品が一因かもしれない」とおっしゃっていました。
とはいえ、時すでに遅し。
時間を空けて二度目の精液検査を実施するも、結果は変わりませんでした。
次のステージを見てみたい
「奥さんの年齢も考慮すると、今の旦那さんの状況では顕微授精でしか妊娠できる可能性はないです」
と、ハッキリとドクターに断言された私たち夫婦。
公立病院へ移るための紹介状を見ながら、私たちはたくさん話し合いました。
私の年齢のこと、二人の仕事のこと、そして「なぜ、子どもがほしいのか?」という根本的なことまで、かなり議論したのを覚えています。
これだけ価値観の多様性があふれている現代ですから、子どもを持たない選択肢もあります。
未婚のまま親になる選択も、生涯独身でいることだってその人の自由です。
当たり前の基準が消えつつある今、それでも思ったのは「どうしても子どもが欲しい」、そして「子どもによって私たちが辿る次のステージを経験してみたい」ということです。
言葉にする理由は色々とありますが、本質的にはもっと、理屈を超えた何かが私たちを突き動かしている感じでした。
多分、ここは本能なんだと思います。
そしてパリ郊外の公立病院に移った私たちは、フランスでの不妊治療をこのコロナ禍で始めることになりました。
「恐らく可能性としては10%以下ですが、トライしなければ0%。やらないよりはやる方が良い。やってみましょう!」
ドクターの力強い言葉が胸にしみました。
期待しないモチベーション
フランスの不妊治療は100%保険適用ということもあり、日本に比べると割とポピュラーです。
度重なるテロに加えてロックダウン、差別問題など重めなトラブルを抱えているフランスですが、この件に関しては本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
実際に私たち夫婦が払った金額は、夫のサプリメント代や私の飲み薬など微々たるものでした。
日本でも2022年から不妊治療が保険適用となるそうですね。
反対意見もあるようですが、出生率の向上や昨今の男性不妊を考えると、そんなことは言っていられないと思うのです。
冒頭にも書きましたが、子供を成すことは夫婦二人の共同作業ですし、現代の産みにくい・育てにくい社会のシステムはいち早く改善すべきです。
30代後半を過ぎてからは、一回の排卵も無駄にはできません。
その貴重な排卵を無駄にしないためにも、まずは男性側の検査も初回からマストにすべきだと思います。
ロックダウン中も病院通いが続きました。
友人や家族から「何も考えずにリラックスしてる時に妊娠したりするものよ」とアドバイスを受けるも、やはり「期待しないようにモチベーションを保つ」方がよっぽど難しいのです。
道ですれ違う若いお母さんに嫉妬したりもしました。
時折ニュースで流れてくる児童虐待のニュースを目にして「その命、私にちょうだい」と思ったりもしました。
今まで抱いたことのなかった感情に驚きましたし、赤ちゃんが欲しいとは思うものの、「早くこの苦しみから解放されて楽になりたい」と、心の隅で感じてしまっている自分もいました。
どうやらこの先、色々な感情を乗り越える必要がありそうです。
後編ではフランスの不妊治療の詳細・価値観などについてお話したいと思います。