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自分だけでも自分を受け入れ「良し」とする。 それが自信につながると教えてくれる小説「しゃべれども しゃべれども」佐藤多佳子著

私は昨年の8月まで職業訓練校の講師をしていました。
講師になったばかりの頃の私は早く一人前になりたくて様々な本、例えば「伝わる話し方」や「ビジネスコミュニケーション」などを読み漁っていました。
でもね、私が一生懸命になればなるほど訓練生さんたちは冷めていくのです。
「なんで?私、こんなに頑張っているのに!」
「やっぱり向いていないのかも?」
自信を失いそうになっていたある日、一人の訓練生さんに言われた言葉でハッと我に還ることが出来ました。
「先生さ、一生懸命なことは認めるよ。だけどその一生懸命さって自分のためだよね。うまく伝えたいとか尊敬されたいとかベクトルが自分にしか向いていないから響かないんだよ」
なんと手厳しい!
でも、おっしゃる通りです。
私は自分のことしか考えていなかったんですね。
受け入れられるわけがない。
本来の私は能天気でいい加減なのですが肩に力が入りすぎていたんですね。
大人相手の仕事なので、万人に受け入れられなくても仕方ないと腹をくくることが出来ました。
私よりかなり年下の方でしたが、その言葉のおかげで最初の難関を乗り越えられました。
いまだに大尊敬してます。

さて、今回ご紹介する小説は佐藤多佳子著「しゃべれども しゃべれども」です。
コミュニケーションが苦手な3人と口よりもすぐ手が出てしまう落語家さんのお話です。

では、あらすじを簡単に。

今昔亭三つ葉。当年二十六。祖父の影響で三度のメシより落語が好き。今昔亭小三文師匠に弟子入りし噺家になったのですが、未だ前座よりちょっと上の二ッ目というありさま。頑固でめっぽう気が短く、同期の噺家と喧嘩になり徳利で前歯をへし折ったこともあります。でも女性の気持ちにはとんと疎いのです。そんな三つ葉に、落語指南を頼む物好きが現われました。だけどこれが、吃音症の友人、関西弁の生意気な小学生、身体中で他人に喧嘩を売っている黒猫のような若い女、悪人面の元プロ野球選手と困りもんばっかりで……。

作者の佐藤多佳子さんは1989年「サマータイム」でデビューしました。
「しゃべれども しゃべれども」は第19回吉川英治文学新人賞候補、第11回山本周五郎賞候補になっています。
2007年TOKIOの国分太一さん主演で映画化もされています。

主人公の三つ葉は江戸っ子口調で荒っぽく、すぐにかっとなりやすい人物なので、最初はあまり感情移入が出来なかったのですが、4人に対して徐々におせっかいともいえるような面倒見の良さが見えてきてからはすんなりと話しに入っていけました。
序盤は割と淡々と話しが進んでいきますが、4人の抱えている問題や三つ葉自身が抱えている芸の伸び悩み、片思いしている気持ちの描写など、主人公を含めた人々がゆっくりと、でも確実にひたむきに前に進もうとしていることが、テンポの良い語り口で描写され、まるで映像が浮かんできそうなのは作者の力量によるものですね。
読んでいて非常に心地がいいです。

また、主人公が住む東京の下町の情景、茶道、ほおずき市、着物など所々に感じられる「和」も繊細で懐かしさを感じられます。
落語の世界を身近に感じられるのも良いですね。
「まんじゅうこわい」を高座で聞きたくなります。

自分だけでも自分を受け入れ「良し」とする。
それが自信につながると教えてくれる作品です。
クスリと笑えたりホロリとさせられたり読後はとても爽やかな気持ちになります。

しゃべれども しゃべれども
著者:佐藤多佳子
出版社:新潮社
発行:1997年8月

※画像はAmazonより引用させていただきました

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