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おばあちゃんになっても幽霊になってもずっと本好きでいたい。小説「さがしもの」角田光代著 新潮文庫

私はいま、本の置き場所に困っています。
自分の本だけなら何とかなるのですが(それでも本棚には入りきらない)最近はアルバイトをしたお金で漫画の単行本を、全巻大人買いしてしまう息子のせいなのです。
私も元々、漫画好きなので一緒に読めるのはうれしいのですが、自分の部屋に置ききれなくなった本を2階の私の部屋に置きに来るのです。
毎月、増える本…。やはり本棚を買うしかないのでしょうか?
と、悩み中。
そういえば、以前、大の本好きの知人が、寝る場所以外は本で自室が埋め尽くされ、ある日、とうとう、床が抜けたという話を思い出しました。(知人の親御さんの話では120㎏ある知人の体重が原因とか…笑)
私の部屋は2階です。本に埋め尽くされるのはいいのですが、大惨事になりかねません。私の体重も増え気味なのでとても心配です。

さて、今回ご紹介する小説は角田光代さんの「さがしもの」です。本にまつわる9つの短編小説です。



では、あらすじを簡単に

18歳の時に、学生街にあるひっそりとした古本屋で初めて本を売った。
「あんたこれ売っちゃうの」本屋のおばさんは言いました。
価値があるのかと問うと「人に聞くもんじゃないあんたが決めること」とかえされました。
私は少しむっとしたのですが、他の本と合わせて3500円で売ったのでした。
しかし、日本ではない場所で、わたしはその本と思わぬ再会をすることに…。
-旅する本

私はその時24歳。恋人と旅行に行ったタイの小さな島で、マラリアにかかっていた。
突然、発熱したのです。
寝ている私のために恋人は何冊か文庫本を持ってきてくれました。
旅行者たちが置いて行った本。日本の本も何冊かありました。
片岡義男の本。私はその本の文字を見ながら、浮かび上がってくる本の持ち主だった男であろう人物に思いを馳せた。
-だれか

作家情報

作者は角田光代さんです。1967年生まれ、神奈川県横浜市出身です。
1988年、大学在学中に彩河杏名義で書いた「お子様ランチ・ロックソース」で上期コバルト・ノベル大賞受賞します。
1990年『幸福な遊戯』で第9回海燕新人文学賞を受賞し、角田光代として作家デビューしました。
2005年には『対岸の彼女』で第132回直木三十五賞を受賞しています。
作家になるのを志したのは小学校1年生の時だそうです。
女性の繊細な心情を描かせたら右に出るものはいないと評されています。
代表作に「八日目の蝉」「対岸の彼女」「空中庭園」があります。そして以前ご紹介した映画「愛がなんだ」も角田さんの作品が原作となっています。

本と旅をする感じ

本作は9つの本の物語です。
自分が売った本と思わぬ場所で再会したり、古本屋を渡り歩く本を探したり、別れる男女の本棚の話…。そして、最後にあとがきとしてのエッセイがあります。
最初の1篇を読んだ時、「あれ?これもエッセイなのかな?」と思ったほど、淡々としていてそれでいてリアルに感じられる文体は角田さんの特徴ですね。

私、個人として好きなお話は「ミツザワ書店」です。
駅から続く覇気のない商店街のはずれのミツザワ書店。
主人公は駆け出しの小説家。子供時代にこの本屋に通っていました。
軒先に週刊誌と漫画本がある普通の本屋ですが、中に入るとまるで倉庫のよう。
雑然としていて床にも本が積み上げられています。
そんな本屋の店主はおばあさんでした。
本が積まれたレジで、いつも売り物の本を読み漁っているのです。
声を掛けなければ気付いて貰えません。
大人になった主人公が久しぶりに訪れた時、店は閉まっており、おばあさんは亡くなっていました。そのかわり、現在そこに住んでいるおばあさんの孫におばあさんと店のことを色々と聞くことが出来ました。
おばあさんの孫によると、おばあさんは本が好きなので本屋を営んでいるおじいさんのところにお嫁さんに来たそうです。
読み放題ですものね。おじいさんより本を選んだんですね。
そして、なぜ本が好きかと聞く孫に、おばあさんが出した答えは
「開くだけでどこへでもつれてってくれる」です。
そう、そうなんです、ここ、凄く共感しました。
ページを開くだけで、物語の世界に行けるのが本の醍醐味です。
行ったことのない異国の街並み、近未来、果ては宇宙まで・・・。
時に登場人物の人生に心を打たれたり、本の世界はなんて豊かなのでしょう。
そんなことをしっとりとした繊細な文章で、再確認させてくれる作品です。

さがしもの
著者:角田光代
出版社:新潮社
発行:2008年11月1日

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