Tempalay「大東京万博」日本東京の不穏と期待に揺れる今をパッケージングした渾身の1曲
ニューアルバム「21世紀より愛を込めて」が2019年6月にリリースされたことも記憶に新しいTempalay(テンパレイ)。
フロントマンの小原綾斗を中心として、どこか不穏でローファイなサウンドを武器に時代の最先端の音楽を鳴らすポップロックユニットです。
結成は2014年とまだ日の浅いバンドながら、一度聴くとやけに耳に残るどこか不気味さすら帯びた不況和音や、そこから展開されるサイケでポップな楽曲の世界観に、今多くの音楽ファンが虜になっています。
前回のリリースから約9ヶ月。
少し性急さすら感じるようなペースで、彼らが2020年2月にリリースしたニューシングルが、今回ご紹介する「大東京万博」です。
開催が決定した当時は日本国民中が歓喜に沸いた、来たる2020年の東京オリンピック。
しかし現状では、世界的な病原菌のパンデミックにより開催が危ぶまれています。
実は数十年前に刊行されたとある漫画に、この現在の日本情勢が全て予言されているのでは、という噂が、東京五輪開催決定時からまことしやかに巷では囁かれていました。
その作品とは、1980年代に連載されていた大友克洋作「AKIRA」。
近未来の日本の主要都市「ネオ東京」を舞台に繰り広げられる闘争劇を描いた漫画です。
今回リリースされたTempalayのシングル「大東京万博」は、そんな「AKIRA」をモチーフとした作品ともなっているのです。
(ボーカル小原によれば、楽曲の仮タイトルにはそのまま「AKIRA」という名前が付けられていたんだそう。)
多くの人々が期待を胸に待ちわびていた、アニバーサリーイヤーともなる2020年。
漫画「AKIRA」の読者のみに限らず、多くの人々がこの2020年を迎えた日本は、東京は、どんな街になるのかとそれぞれに想像を膨らませていたことと思います。
今作「大東京万博」は、そんな多くの人々が想像した東京をTempalayなりの形で表現した作品とも言えるのではないでしょうか。
様々なテクノロジーが目覚ましい進化を遂げ、それにより発展した文化や科学のある一方で、人間を人間たらしめる本質はずいぶん前からおかしな方向へとねじ曲がっています。
その不穏さや違和感を、このパンデミックの中に飛び交う様々な情報の錯綜やデマによって感じた方もきっと多いことでしょう。
社会の中に漂う不穏な空気と、それでもその中に同居する未来への捨てきれない一抹の淡い期待。
まさに今この瞬間の日本のムードや空気感を、Tempalayは「大東京万博」にそのままパッケージングしているのではないか、とすら思わされるような1曲となっています。
常に時代の先を見据えながら、独特の雰囲気を纏ったサウンドメイクを行ってきたTempalay。
今回のシングルは、彼らだからこそ生み出すことの出来た楽曲と言っても過言ではないのかもしれません。
明るく華々しいオリンピックイヤーになるかと思いきや、世界を襲った思わぬパンデミックに大きな打撃を受け、私たちは今まさに波乱と渾沌の最中に巻き込まれています。
多くの人々の心の豊かさを支えていた娯楽やカルチャーも、ウィルスに大いなるダメージを受けた犠牲者です。
事態の収束を願いながら、今私たち個人ができること。それは、マスコミの大袈裟な情報に振り回されないよう、いつか終わるはずのこの闇の先を見据えながら、自分自身の手の届く範囲の物事を大事にする。
恐れている不穏な未来を回避する為の方法は、只々それに尽きるのではないかと思います。
大東京万博
アーティスト:Tempalay
レーベル:SPACE SHOWER MUSIC
発売日:2020年2月16日
※画像はAmazonから引用させていただきました