19世紀末の芸術に魅了されすぎたら世界が広がった☆the decadence☆ Vol.11【ヒステリーと小説編】

皆さん、こんにちは。
CHANELの新たな展示会「ピエール=エリィ ド ピブラック展(Pierre-Elie de Pibrac Exhibition)In Situ」が始まりましたね。
2019年には天王洲アイルで、オートクチュールコレクションが展示された「マドモアゼル プリヴェ展」、続いて原宿ではジュエリーやウォッチが展示された「CHANEL SUITES(シャネル スイート)」が開催されました。
今回は、パリ・オペラ座でのバレエ公演の写真展とのことで、また新たな世界を見ることのできる機会が増え、個人的にとても嬉しく思います。
私は以前、CHANELにあまり興味がありませんでしたが「マドモアゼル プリヴェ展」でオートクチュールコレクションの展示を目にして初めてCHANELの世界観に惹かれました。
3か月以上前のことですが、今でもその光景が頭の中で鮮烈に残っており、それ以来、自分のファッションコーディネートやインテリアデザイン等に大いに影響しているなあ、としみじみ感じます。

皆さんも意図せず、何かしらの経験に影響を受けたことがあるのではないでしょうか。
時には、よい意味で自身のその後の人生観を変え、時にはトラウマに繋がる強烈な経験として…。

今回は、シャーロット・ブロンテ作の小説『ジェイン・エア[Jane Eyre]』(1847)を例にとって、「ヒステリー」についてお話したいと思います。
前回お話したように、「ヒステリー」は19世紀後半のイギリスの精神病院への入院許可の症例のひとつであり、当時の女性について語るに欠かせないものです。
ヒステリーを扱った小説は数多く存在しますが、私の中では『ジェイン・エア』に描かれたヒステリーに関連する2つの場面が特に印象に残っています。
その2つの場面を例に、「ヒステリー」と「女性」の関わり方についてお話を進めたいと思います。

赤い部屋

ひとつは主人公ジェインがお仕置きとして赤い部屋に閉じ込められた場面です。
幼少期に両親を亡くし、孤児となったジェインは親戚の家に預けられますが、差別的な扱いを受けていました。
ある日、従兄弟に暴力を振るわれ、反撃に出たところ、罰として、叔母によって「赤い部屋」に閉じ込められました。
その部屋でジェインは大好きだった叔父の「亡霊(幻影)」を見て、気を失ってしまいました。
その後、ジェインは穏便な医師によって「正常」と診断されました。
もし、「異常」と診断されていたならば、例え反撃であったとしても「従兄弟に暴力をふるうという行為=狂気じみている、ヒステリーの気がある」とみなされ、精神病院に収容されていたかもしれません。
ジェインは元々、感情を表に出しやすい気質でしたが、赤い部屋での恐ろしい経験がトラウマとなり、自身の感情を抑制するようになりました。

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屋根裏部屋の女性

大人になり、教師になった後、ジェインは貴族であるロチェスターの邸宅に家庭教師として雇われ、「妻がいない」というロチェスターと恋愛関係になり、プロポーズされます。
しかし、ロチェスターには妻がいました!!
バーサ・メイソンという名の、イギリスの植民地であったジャマイカ出身の女性でした。
バーサは「狂人、ヒステリー持ち」が原因で、ロチェスターによって屋根裏部屋で監禁され続けていたのです。
なんてこったい(‘Д’)ww 
ロチェスターとバーサの結婚は政略結婚であり、愛のない生活に我慢できなくなったバーサが感情を取り乱したことで、ロチェスターに「狂人」扱いされてしまいました。

ジェインは、発狂したくなるほどに感情が爆発寸前でしたが、「感情を抑制する」ことを優先し、屋敷を去ります。
バーサは屋敷に火を放ち、亡くなり、ロチェスターは火傷を負い、盲目になります。

感情を表に出すか否か。表に出せば「狂人」、感情を押し殺すことができれば「正常」ですが自分の心に蓋をしなければならない。
ジェインもバーサも精神病院に収容されることはありませんでしたが、ここでお話した場面は読んでいて息苦しく感じずにはいられませんでした。

『ジェイン・エア』は人気の高い研究テーマなので、詳細や結末に興味ある方はネットや書籍で調べてみてくださいね☆

感情をコントロールすることが女性にとって当たり前!?

私たち現代人は「ヒステリー」「ヒステリック」という表現をよく耳にしますが、性格的に気性が荒かったり、たまたまストレスが溜まっていたり…と理由は様々です。
「気が狂ってる」という表現に至っては、良い意味でも、悪い意味でも「ぶっ飛んでる」といった意味合いでよく使われる表現です。
私は度を超えて面白すぎる人を「気が狂っている」とよく言っていますが、だからといって「精神病院に収容するべき」と考えたことはありません。
「ヒステリック」な人とはあまり関わりたくありませんが、精神病とは思いません。

しかしながら、『ジェイン・エア』の執筆された19世紀半ば、ヴィクトリア朝時代のイギリスでは、特に女性の「ヒステリー」は「狂人」とみなされ、手に負えない存在として監禁されたり、精神病院に収容されたりしました。
当時の女性は感情を素直に表現することを厳しく抑制されていたのです。
しんどいですね。
現代の女性と違って、怒りをぶつけたり、バカ騒ぎしたりすることは不道徳とみなされていました。
「臭いものには蓋をしろ」といった感じでしょうか。

このような道徳観は当時の中流階級の男性によって定められました。
ヴィクトリア朝時代のイギリスでは、中流階級を中心として社会が回っていました。
特に中流階級の女性に対する規制は厳しく、男性の決めた理想像を遵守するよう強要されていました。

次回はその理想像の中から、「化粧」についてお話したいと思います。

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