マンガ「応天の門」灰原薬著 菅原道真&在原業平が織りなす平安時代の物語を刮目せよ
国内外を問わず、古くから多くの人々に読み継がれ支持されるたくさんの名作たち。
そんな名作の要素の1つとして、2人のコンビやバディ(=相棒)が活躍を繰り広げる物語はこれまで多数世の中に発表されていますよね。
「シャーロック・ホームズ」シリーズの、シャーロック・ホームズとワトソン博士。
映画「最強のふたり」のフィリップとドリス。
身近な作品でいきますと、現在放送されているTVドラマ「MIU404」
これも綾野剛と星野源演じる、2人の機動捜査隊の物語ですね。
古今東西、これまで様々な作品に登場してきた数々のバディ。
その中でも私が特にお気に入りなのは、小説「陰陽師」の安倍晴明と源博雅でした。
元々妖怪や日本の歴史モノ作品が好きなこともあり、この小説はかれこれ20年近く私の愛読書となっています。
しかし、最近そんな「陰陽師」に匹敵するバディ作品と私はついに出会ってしまいました。
それが今回ご紹介する、漫画「応天の門」です。
このマンガの舞台は平安時代。
物語の主人公は学問の神様として名高い、あの菅原道真です。
しかし作中に登場する彼はまだ文章生という、現在で言う学生の身。
(実際の菅原道真は18歳で文章生となっていますが、作中では齢12~14といったところでしょうか。)
まだ若いながらも非常にリアリストである彼が、ひょんなことから稀代の色男である在原業平と出会い、平安の世に起こる事件を共に解決していく。
この作品は、そんないわゆるミステリー・サスペンス歴史モノです。
テイストとしては、先述した小説「陰陽師」と確かに近いものがあるこの作品。
しかし大きな違いは、主人公の菅原道真がどこまでも実在する現象として事件を解決していく点でしょうか。
実際の平安の時代は、幽霊や妖怪などの非科学的な存在が色濃く信じられていた時代でもあります。
しかしその中でも菅原道真は、全ての事象には科学的な原因がある、というスタンスを崩しません。
まだ少年と呼んでも差し支えない彼が持ち前の知識で、在原業平を始めとした大人たちも舌を巻くような発想で、事件をどんどん解決してゆく。
その鮮やかな展開が、非常に痛快な物語となっているのです。
(もっとも彼自身は、基本あまり面倒事には巻き込まれたくない、と思っているのですが…。)
また同時に見どころとなっているのは、少年・菅原道真の人間としての成長。
この「応天の門」は2人のバディの活躍劇と同時に、当時実際にあったであろう宮中の政治紛争の様子も、非常に詳細に描かれています。
政治を牛耳る藤原家と、虎視眈々とその状況を転覆させようと暗躍を図る周囲の人々。
様々な思惑渦巻く中で、少しずつ菅原道真も不本意ながらその波に巻き込まれていきます。
面倒事や大人たちの陰謀が飛び交う政治の世界には、極力関わりたくない菅原道真。
しかし悲しきかな、彼の出自はそれを許してくれません。
また同時に、彼は若い身空で人より優れた知識や知略を持っているからこそ、自身が持つ少年らしい心持ちで大人たちと対峙しようとします。
そんな彼に大きな影響を与えるのが、作中で彼のバディとも呼べる在原業平の存在なのです。
物語当初の彼は、自分より知識や学のない相手に関して興味関心をほとんど示しませんでした。
どちらかと言えば、自分以外の人間は多くは学のない存在だと見下した態度まで取る始末。
しかし在原業平と共に様々な事件に巻き込まれていく中で、人一倍学や知識を持っているはずの自分が、どれだけ無力な存在かということを少しずつ知っていきます。
膨大な知識や学問は、ただ知っているだけでは何の役にも立ちません。
いかなる適切なタイミングで、どのように応用し活用していくか。
それが出来て初めて、知識や学問が自身の大きな財産となる。
その事を、菅原道真少年は多くの人々との関わりで知っていくのです。
大人たちの思惑が渦巻く政治の世界に、できることであれば関わりたくない。
しかし膨大な知識や学問を習得している自分だからこそ、その政治の世界でできることがある。
それに気づいていく菅原道真の成長を、まるで自分の事のように読むことができる。
それがこの、漫画「応天の門」の面白さとなっているのではないでしょうか。
知識や学問は吸収するだけでなく、使って初めて自分の血肉となる。
この気づきは、多くの人が一度は必ず通る道なのではないかと思います。
身に付けた学問を活用する楽しさを知った時、さらに多くのことを知りたいと思ったことはありませんか?
学問だけに精を出す学生の頃は気づかなかった、学ぶことの面白さ。
それに大人になってから気づいた方も、きっと多いのではないでしょうか。
身の周りの事件を解決する中で、今まさに学問の真髄に気付かんとしている菅原道真。
彼の少年から大人への成長を、「応天の門」を読んであなたもぜひ一緒に追いかけてみて下さい。
ちなみにこの漫画、平安時代の生活様式に関する豆知識が書かれたコラムも満載。
物語を読みながら併せてチェックして頂くと、より彼らの生きた時代が鮮やかに思い浮かぶのではないかと思います。
応天の門
著者:灰原薬
出版社:新潮社
発行:2014年4月9日第1巻発売
※画像はAmazonより引用させていただきました