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ルネサンス時代の摩訶不思議なるアクセサリーたち!豪奢でグロなその理由とは

絵画の世界において写実主義が横溢し始めたルネサンス時代。
残された肖像画には、モデルとなった人物の性格まで写すような興味深い作品もたくさんあります。
とはいえ、やはり目が行くのは当時の豪華なファッションやジュエリーではないでしょうか。しかし、数々の装飾品の中には、現代のわれわれの想像を絶するアイテムもあるのです。
今日はその中から、2つの装飾品をご紹介いたします。

肖像画を描かせれば右に出るものがいなかったロレンツォ・ロットの作品『ルチーナ・ブレンバーティの肖像』。ベルガモの貴族であった彼女の胸元には、豪奢なつまようじが!
(1521年頃 アカデミア・カッラーラ所蔵)
画像引用元:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Lotto,_ritratto_di_lucina_brembati.jpg



女性が首にかけているもの、それはつまようじ!

ヴェネツィア派の重鎮パオロ・ヴェロネーゼが描いた『カナの饗宴』。その片隅で、美女が爪楊枝を使っています。
(1563年 ルーヴル美術館所蔵)
画像引用元:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Paolo_Veronese_-_The_Marriage_at_Cana_(detail)_-_WGA24858.jpg?uselang=it

つまようじの歴史は実は大変に古く、古代ローマ時代にはすでに木製や鳥の羽、銀製の爪楊枝が存在していました。古代のつまようじについては、当時の詩人マルティアリスや皇帝ネロの側近であったペトロニウスらも記述を残しており、その存在は確実視されています。

それが、アクセサリーとなって貴族たちの胸元を飾るようになったのは16世紀のこと。
金やエメラルドなどの宝石で装飾されたこのつまようじは、16世紀のみに見られる非常に独特なアクセサリーというのが専門家たちの一致した意見です。

裕福な環境に生まれた人物のことを「銀の匙を咥えて生まれてきた」といいますが、彼らが成長して身に着けていたのが金のつまようじかと思うと微笑ましいものがあります。
このつまようじを身につけた肖像画は、ロレンツォ・ロットやティツィアーノといった当時の一流の画家たちによって残されています。

17世紀以降は姿を消したこの奇妙奇天烈なアクセサリーについては、当時も反対意見が少なからずありました。16世紀に『修身読本(Galateo)』を著したジョヴァンニ・デッラ・カーザもそのひとり。
「いかにも今から大食するぞというイメージで、お世辞にもエレガントとはいえない」と書いています。

ちなみに、つまようじを首から下げた当時の女性たちを少しだけ弁護すると、イタリアには「コルニチェッロ(Cornicello)」という角の形をしたお守りがあり、サンゴや銀、金で唐辛子をかたどったアクセサリーが、現代も愛されているという事実があります。
イタリアを旅行中、特に南部では唐辛子の形をしたキーホルダーやアクセサリーを目にすることが多いのですが、これはお守りとしての「角の形」が数世紀に渡って浸透していることを示しています。

あまり品が良いとはいえないつまようじのアクセサリーも、こうした歴史を踏まえて普及したのかもしれません。

その毛皮はノミ取り?貴婦人たちのアイテムの意味

ヴィチェンツァの貴族ダ・ポルト家に嫁いだ女性の肖像。手にしている毛皮の頭部は金や宝石で作られています。ちなみに彼女は懐妊中なのだとか。パオロ・ヴェロネーゼ作。
(1552年頃 ウォルターズ美術館所蔵)
画像引用元:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Paolo_Veronese_-_Livia_da_Porto_Thiene_and_her_Daughter_Porzia_-_WGA24979.jpg


もうひとつ、現代では見ることのないルネサンス時代の女性たちのおしゃれアイテムがあります。
それが、「ノミの毛皮(Zibellino da Pulci)」と呼ばれるもの。
王侯貴族が毛皮を愛好するのは珍しくありませんが、ルネサンス時代の女性たちが身につけたこの毛皮には、動物の頭部となる部分を金や宝石でかたどる風習がありました。
クロテン、イタチなどの動物の毛を使用したこのアクセサリー、セレブリティたちのステイタスであったことは想像に難くありません。
いっぽうで、多産や安産を祈る女性たちのためのお守りの役割を果たしていたそうで、妊娠中の女性の肖像画にも描かれています。

ティツィアーノの傑作『エレオノーラ・ゴンザーガの肖像』。少しわかりにくいのですが、彼女のお腹のあたりに動物の頭部をかたどったアクセサリーが見えます。黒の衣装と一体化していますが、ノミを集めたかもしれない(?)毛皮も描かれています。
(1538年頃 ウフィッツィ美術館所蔵)
画像引用元:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Tizian_055.jpg


ところが19世紀になって、ウェンデリン・ボーハイムという歴史家がユニークな説を展開しました。
このアイテムは、当時の衛生事情を考慮して体に寄生するノミを集めるという役割を果たしていたというのです。このアクセサリーに、「ノミの(da pulci)」という名がついているのがその理由です。
この説は現在も賛否両論ですが、いかに美々しく装っていてもその体にはノミがまとわりついていたと思うと興ざめですね…。

絵画から見るファッションアイテムは奥深い!

美術鑑賞というと、ガイドブックなどに紹介されていることにばかり注目してしまうことが多いのではないでしょうか。
いっぽう、自分の目で細部を観察すると、現代では想像もつかない当時の状況や環境が浮かび上がってきます。
今回は、少しばかりおどろおどろしいファッションアイテムをご紹介いたしました。優雅な女性たちを彩ったグロテスクなアイテム、お気に召しましたでしょうか?

参照元
・Oro, gemme e gioielli Silvia Malaguzzi著 Electa社刊
・Con Stile Alessandro Marzo Magno著 Garzanti刊

FRANCY’S PILLS: Lo Zibellino da Pulci: un vezzo originale o un oggetto rivoltante?

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