湊かなえ「贖罪」一番しなければならないことを見失った4人の女性の悲劇
韓流ドラマ
家の母親と2人の妹たちは毎日韓流ドラマを観ています。
「ありえない、腹が立つ」
「なんでこうなる」
文句を言いながらももう10数年毎日見続けています。
ジェットコースターのように急展開を繰り返すストーリーに、感情を揺さぶられ癖になるようですよ。
息子がまだ小学校低学年の頃。
その日も学校から帰ると母と妹は韓流ドラマを観ていました。
ドラマはある主要キャストが死ぬのではないかという緊張感を迎えていました。
「あー嫌だ、この人死んじゃうのかしら…」
不穏な空気が漂う場面に涙もろい母はすでに目がウルウルしていました。
「ばぁば、このおじさん死んじゃうの?」
無邪気に聞く息子に
「ばぁもわからないけど、死んだら嫌だね」
と返す母。
私はいつものことと苦笑しながら自室に戻りました。
30分ほどたった頃、息子が部屋に入ってきました。
「何してたの?一緒にドラマ観ていたの?」
「うん」
「そう。ばぁば泣いてた?」
「うん…オレも」
「!?」
そういった息子を観るともうボロ泣き状態。
「オジサン、車に飛び込んで死んじゃったんだよ」
とワンワン泣き始めました。
「ばぁばが泣くんだもん…。」
母につられて泣いたようですが、オジサンの車に飛び込む姿も怖かったようです。
息子はその後、韓流ドラマを観ることはなくなりました。
彼曰く「トラウマ級の恐怖」だったようですよ。
オジサンの死に様が。
さて、今回ご紹介する小説は湊かなえさんの「贖罪」です。
では、あらすじを簡単に
とある田舎町にできた足立製作所の工場と、社員のための田舎には不似合いな瀟洒な社宅。
そこに越してきた転校生エミリの環境に憧れや羨望の思いを抱きながら、4人の小学生はエミリと仲良くなります。
夏休みのある日「グリーンスリーブス」が鳴る午後6時、彼女達はエミリの死体を発見します。
彼女達は犯人を見ていたのですが、その顔はどうしても思い出すことが出来ませんでした。
娘を喪ったエミリの母親は彼女たちに言います。
―あなたたちを絶対に許さない。必ず犯人を見つけなさい。それができないのなら、わたしが納得できる償いをしなさい―と。
十字架を背負わされたまま成長した四人に降りかかる、悲劇の連鎖。
作者情報
作者は湊かなえさんです。
2005年第2回BS-i新人脚本賞で佳作入選。
2007年「聖職者」で第29回小説推理新人賞を受賞します。
そして「聖職者」から続く連作集『告白』が2009年、第6回本屋大賞を受賞。
2010年に松たか子さん主演で映画化され、これが2010年度の日本映画興行収入成績で第7位(38.5億円)を記録します。
書籍の売上も累計300万部を超える空前の大ベストセラーとなり、作者の名とともに”イヤミス(読んだ後に嫌な気分になるミステリー)”というジャンルを世に広めました。
湊かなえさん、真梨幸子さん、沼田まほかるさんの3人は“イヤミスの女王”と言われています。
その中でも人間、特に女性の湿り気のあるネガティブな側面を詳細に描き出す点では、湊さんが圧倒的だと思います。
麻子は苦手なタイプ
物語は『告白』と同じく章ごとに主人公が変わる独白形式で描かれています。
紗英、真紀、晶子、由佳、この4人はエミリと行動を共にしており、エミリの死体を発見しています。
そして、犯人の顔も見たはずなのですが…。
そしてエミリの母、麻子。
彼女の一言が呪縛となり4人の人生を狂わせます。
うーん、子を持つ親としてはなくはないとは思いつつ、彼女の言動はいまいちスッキリしないモヤモヤが残ります。
自分の言った言葉が彼女たちを縛りつけ、そのことで彼女たちが苦しんでいることを知っています。
麻子は後悔し、4人を支援したりしているのですが、自分勝手さが極まっている感じが…。
苦手。
女性の決して人に知られたくない心情をこれでもかというほど丁寧に繊細に描いています。
淡々と描かれていますが、それが逆にお腹の底が冷えるような気持ち悪さを呼び起こします。
しかし、読後感が思ったほど悪くはないのが不思議。
作者の力量ですね。
続きが気になってどんどん読み進めてしまいますよ。
週末に一気に読むのがおすすめです。
贖罪
著者:湊かなえ
出版社:東京創元社
発行:2009月6年12日
※画像はAmazonより引用させていただきました