復活祭の象徴「卵」はアートにも登場頻度が高い!その意味するところは?

カトリックの大本山ヴァティカンを擁するイタリアでは、クリスマスと並んで復活祭が大変重要なイベントとなっています。
クリスマスと異なり、復活祭は毎年日程が移動します。
2021年の復活祭は4月4日。

ベアート・アンジェリコが描く『キリストの変容』。イエスキリストは、卵型のオーラに囲まれています。(1441年ごろ、フィレンツェ・サン・マルコ美術館)
画像引用元:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Fra_Angelico_042_adjusted.jpg

ヤコポ・バッサーノが描いた『エマオの晩餐』。卓上には卵が置かれています。(1538年作 テキサス州キンベル・アート・ミュージアム)
画像引用元:https://en.wikipedia.org/wiki/File:%27The_Supper_at_Emmaus%27,_oil_on_canvas_painting_by_Jacopo_Bassano_(Jacopo_dal_Ponte).jpg

イタリアの宗教イベントといえば、一族郎党が集ってひたすら食べるのが風物詩となっています。昨年の復活祭は、コロナ禍に伴うロックダウンとなり親戚一同が集えない状況でした。イエス・キリストの復活を祝うどころか、まるでこの世の終わりのような様相であったのを思い出します。

イタリアでは復活祭を「パスクア」と呼びますが、日本では一般的に「イースター」として知られているのではないでしょうか。
「イースターエッグ」なんていう言葉も、1度は耳にされた方もいらっしゃるのでは?
卵は、復活したイエス・キリストの「再生」のシンボルとして、宗派を問わずに復活祭にはよく食されます。

パスクアに食べられる卵型のチョコ

その昔、欧州の王室では宝石で装飾した豪華な卵型の置物を、イースターの贈り物としていたそうです。
いっぽう一般庶民のわれわれはというと、この時期にはスーパーにこれでもかと登場する卵型のチョコレートを購入したり贈り物にしたりします。この卵型の巨大チョコ、中は空洞でもっぱら子供用にちょっとしたおまけが入っているのです。

歴史を紐解いて見れば、卵は古代の人々にとって生命の源に等しい神秘的な存在であったようです。
全世界の象徴であったり豊饒のシンボルとして、卵はアートの中でもよく描かれてきました。紀元前6世紀のエトルリアの墳墓には、死者が右手に卵を持った姿で描かれています。

卵が描かれた作品としては最も有名なもののひとつはこれ。ピエロ・デッラ・フランチェスカが描いた『モンテフェルトロの祭壇画』。聖母子の頭上に電球のように描かれた卵は、完全な世界の象徴。(1475年ごろの作 ミラノ・ブレラ美術館)
画像引用元:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Piero_della_Francesca_046.jpg

キリスト教の時代になると、芸術における卵の登場頻度はさらに高くなります。
イエスが復活するという事象と生命の源である卵は、識字率の低かった庶民にもわかりやすいアレゴリーだったのでしょう。
復活したイエスが訪れたエマオの家の食卓に卵が描かれたり、当時の風習に忠実に聖母マリアの産褥に産後を養うための卵が描かれたりしているのです。

卵を食するという風習は、古代のエジプトやギリシアではすでにおなじみであったようです。特に古代ローマ人は卵が好きで、お菓子や料理のソースに使っていたという記録が残ります。
現代と違い卵を大量に生産することが不可能であった時代は、富裕層だけがその美味を堪能できる貴重品だったようです。
カトリックの世界では、復活祭前の40日間は「四旬節」と呼ばれて食の節制をする慣習があります。肉類やチーズ類とともに、卵の摂取も禁止されていたことを考えると、卵は節制すべき美味であったことがわかりますね。

スペインの画家フランシスコ・デ・スルバランが描いた『羊飼いたちの礼拝』。イエス・キリストのかたわらには卵が盛られた籠が。産褥期の栄養補給として卵はメジャーであったそうです。(1638年ごろの作品 フランス・グルノーブル美術館)
画像引用元:https://it.wikipedia.org/wiki/File:Francisco_de_Zurbar%C3%A1n_005.jpg

イタリアでは、復活祭の朝のみ唯一という朝食メニューがあります。
イタリア人の通常の朝食は、カップチーノと甘いペイストリーという非常にシンプルなものです。
ところが、復活祭の朝だけはこの甘さとは決別、塩気のきいた食事を摂るのです。
マフィンのような味わいの塩気のきいたチーズケーキ、サラミなどとともに、ゆで卵を食べるのが一般的。とはいえ、地方や各家庭によってこの風習にも相違があるのがいかにもイタリア的ですが。

年に一回だけ食べる塩気のきいた朝食


イタリアで販売されている卵は、6個入りが定番です。
日本と比較すると、日常的に卵を摂取する量は少ないかもしれません。ただし、復活祭前にはお菓子からお料理にまで卵を使用するため、青空市場で数十個をまとめて買っていく人の姿も目立ちます。
青空市場には卵だけを販売する屋台があって、6個の値段は2.5~3ユーロ(320~390円)。決してお安くはありません。
もちろん、スーパーには安価な卵も販売されていますが、地中海式食事法の本場であるイタリアでは食材の品質にこだわるイタリア人も多く、高い卵も飛ぶように売れていきます。

日本は、江戸時代に「卵百珍」なんていう料理本が生まれたほど卵料理のバラエティを有する国です。記録によれば当時の卵料理は、出汁を使った「卵ふわふわ」や料理人が考案した「黄身返し卵」などなど。
ここで、イタリアの中世に伝わる日本の卵料理とは趣の異なる料理をご紹介いたしましょう。出汁の匂いではなくハーブが香り立ちそうな一品です。

この料理を残したのは、15世紀に教皇マルティヌス5世に仕えた料理人ヨハネス・ボッケンハイムです。ボリューミーなためか、肉料理の代わりとしても用いられていたと伝えられています。



マルティヌス5世の卵のスープ

材料(1人分)
・卵3個
・オリーブオイル
・白ワイン
・スパイス(黒胡椒・ナツメグ・丁子・サフラン)
・ハーブ(ミント・マジョラム・イタリアンパセリ)
・塩

作り方
・2個分の半熟卵を作り半分に切る
・黄身の部分を取り出し、ボウルに入れて黒胡椒、丁子、ナツメグとともによく混ぜる
・イタリアンパセリの一部を残し、ミントとマジョラム、パセリもみじん切りにして黄身に混ぜる
・黄身を白身の中に戻す
・サフランを水で戻す
・鍋に1個割り入れ、白ワインと残っているイタリアンパセリのみじん切りを加える塩で味付けをしながら、サフランの液を加える。沸騰しない程度に温める
・別の鍋にオリーブオイルと水を入れ、先に用意した卵を入れて温める
・卵のスープを上からかけて完成

スパイスやハーブをこれでもかと使用しているのが特徴のこのレシピ。
実は保存の技術が未熟であった中世には、ハーブやスパイスは食材のくさみを消す高価な食材であり、富裕階級のみに許された贅沢でもあったんです。
トマトが一般的になる以前のイタリア料理には、常軌を逸した量のハーブが使用されていることが多々あり。
当時の食事情が垣間見えて興味深いですね。

参照元
Il Cibo e la tavola  Silvia Malagucci著 Electa社刊 P.191-198
Il Libro dei simpoli Matilde Battistini/Lucia Impelluso著 Electa社刊 P.175-179
https://historicalitaliancooking.home.blog/italiano/ricette/zuppa-di-uova-ripiene-del-monaco-medievale/
https://textview.jp/post/cooking/38308

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