儚げな黒木華さんが美しい。映画「リップヴァンウィンクルの花嫁」

幼い頃から女子向けのアニメよりもヒーローものや男子向けのアニメが好きでした。
友達付き合いを円滑にするために、女の子っぽいものが好きなように振る舞うことはちょっと苦痛だったかな。

息子が生まれてからは堂々と観られるのでもう気を遣う必要はありません。
中でも、仮面ライダーシリーズは大好きです。

その中でもお気に入りは『仮面ライダー555ファイズ』。
変身アイテムは携帯電話です。
『555』は正義対悪というヒーローものの概念を覆し、敵対する怪人オルフェノクの苦悩にスポットを当て丁寧に描かれた作品です。
そして、子供むけとは思えないダークな世界観。ハマったなあ。
そんな怪人の中で一番印象に残るのがスパイダーオルフェノク。
人間の姿をしているときの哀愁に満ちているのだけれど不気味なたたずまい…。
息子がものすごく気味悪がっていました。

平成仮面ライダーを演じるのはイケメンが多く、今も活躍されている方が多いけれど、私は怪人を演じた彼がなんだか一番印象に残っているのです。

気になって調べたら、なんと綾野剛さんだったんですね。しかもこれがデビュー作だそうで…。

あらびっくり…。

ということで、今回ご紹介する映画は「リップヴァンウィンクルの花嫁」です。
綾野剛さん、妖しさ満点。

東京で中学の臨時教員をする七海。
生活費を補うためコンビニのバイトや、ネットでの家庭教師をしています。
七海はクラムボンというハンドル名でマイナーなSNSで会話することはあるのですが友人と呼べる人はいません。
静かで平凡な生活を送っています。
ある時七海は、お見合いサイトで知り合った教師の鉄也と出会い、何となく交際を始めます。
互いに愛情があるのかないのかあやふやなまま話だけが進んで結納まで至ることに。
そんな中、大人しく声の小さい七海は、生徒からの要望で授業中にマイクを使ったことで解雇されてしまいます。
その事を鉄也に言えない七海は、都合よく寿退職という体をとることにします。
2人は結婚式の準備を始めますが、友人もなく親戚も少ない七海側の招待者が圧倒的に足りません。
悩んだ七海はSNS仲間から、結婚式の代理出席があると聞き業者を紹介してもらい、なんでも屋と自称する安室という怪しげな男と会いました。
七海は、彼を疑うことなく代理出席の手配を依頼します。
そこから運命が大きく動くことに気づくことなく…。

監督・脚本は岩井俊二さんです。
1993年、テレビドラマ『if もしも～打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』を演出し、日本映画監督協会新人賞を受賞します。
そして1995年、初の長編映画『Love Letter』を監督。この作品は日本のみならず中国、韓国で高い評価を得ました。
透明感あふれる独特の映像美は「岩井美学」などと称されています。

主演を務めたのは黒木華さんです。
そもそも「リップヴァンウィンクルの花嫁」は岩井俊二さんが2012年にCMのオーディションで黒木華さんに出会ったのをきっかけに、彼女をイメージして執筆された小説です。
映画での主演は決まっていたようなものですね。

そして、綾野剛さん。
これもひょっとしてイメージされていたのではと思うほどピッタリの配役です。

「リップ・ヴァン・ウィンクル」とは、19世紀に出版されたアメリカの小説の主人公の名前です。
森の奥に誘われて酒盛りを始めた主人公が眠り込み、目が覚めたら20年たって世界はすっかり変わっていたという物語で、日本でいうと浦島太郎ですね。

この作品の主人公七海は、20年はたちませんが、静かにたゆたうように生きてきた人生が安室という男に関わったことで徐々に変わっていきます。
そう、悪い方向へ…。
観ているとちょっぴりイライラするほど流されていく七海。
安室を疑いもせず次々と彼の持ってくる妖しい仕事を受けます。
その1つが七海自身も依頼した結婚式の代理出席です。
彼女はその席で真白という女性と出会い意気投合します。
そして安室に頼まれメイドとして雇われた大きな屋敷で2人は再会し、一緒に暮らすことになります。
ＡＶ嬢をしているらしい真白との暮らしは彼女に唯一の安らぎを与えてくれます。
真白を演じたCoccoさんの存在感が圧倒的で素敵！
流されやすく騙されやすい七海ですが運命に翻弄されていくうちに生命力が溢れていくのが不思議でなんだかリアルです。

生きている実感を感じたのでしょうか？

3時間という長い時間、美しい映像と音楽、黒木華さんの移り変わる儚い表情に飽きることなく没頭できます。
静かな余韻が心に残る作品です。

【リップヴァンウィンクルの花嫁】
監督：岩井俊二
脚本：岩井俊二
原作：岩井俊二
出演者：黒木華
綾野剛
Cocco
製作年：2016年
製作国：日本

※画像はAmazonより引用させていただきました