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壮絶な出来事が人生を知るきっかけに…。小説「氷葬」諸田玲子著 文春文庫

子供のころ、父親が家にいる時はチャンネルの主導権が父にあったので、私たち姉妹の観たい番組は見ることが出来ませんでした。
TVくらいしか家での娯楽がなかった時代、一緒に観るしかなかったので、野球中継、相撲中継は少し辛かったな。
今でも苦手です。「ああ…。また、野球…」と言う絶望感がよみがえります。
しかし、時代劇は唯一、私たち姉妹も楽しんで観ていたような気がします。
水戸黄門、大岡越前、銭形平次、必殺仕事人、遠山の金さん…。
ワクワクドキドキしながら、観ていました。
そのせいか、江戸時代に憧れ、思いを馳せ、時代劇を見る代わりに時代小説を読むようになり、池波正太郎さんの鬼平犯科帳は全巻購入しました。
最近はTVでも時代劇は少なくなり少し寂しいですね。

さて、今回ご紹介する小説は諸田玲子さんの「氷葬」です。時代小説です。



では、あらすじを簡単に

岩槻藩下級藩士奥村賢太郎の妻、芙佐は夫が江戸に出府中、以前、芙佐の実家で働いていた、黑濱村に隠居している与八、おかね夫婦の元に身を寄せていました。
老夫婦、女中のお初、芙佐と生まれたばかりのややこの賢之助。
退屈なほど静かに暮らすなか、夫の知己を名乗る侍・守谷虎之助が訪ねて来ます。
なにやら藩の厄介ごとで追われる身であるという守屋。
爬虫類のようなのっぺりした目鼻立ち、芙佐を値踏みするようなまなざし…。
書状を夫に贈ってほしいと横柄に頼む守谷に芙佐は眉を顰めます。
早々に追い出したい芙佐でしたが、泊めてほしいという守谷に部屋を与えます。
それが芙佐にとって、悪夢のはじまりだとは夢にも思わず…。

作家情報

作者は諸田玲子さんです。1954年生まれ、静岡出身です。
父は詩人の諸田政一さんです。
大学卒業後、フリーアナウンサーや化粧品会社で勤めたのち、テレビドラマのノベライズや翻訳を経て、作家として活動を始めました。
1996年『眩惑』で小説家デビューします。
以降も時代小説で数々の賞を受賞しています。
お鳥見女房シリーズ、あくじゃれ瓢六捕物帖、天女湯おれんシリーズ、狸穴あいあい坂シリーズとシリーズ物もあります。
私は、時代劇を読むとその時代に魅せられ、次もその世界観に浸りたいと思うことが多いのでシリーズ物が多くあると嬉しいです。
そういえば、時代劇はシリーズ物が多いですよね。
私のように感じるかたが多くいるのでしょうか?

一夜で逆転する人生

芙佐は守谷に一夜の宿泊を許したため、凌辱されてしまいます。ついには翌日、怪我をして瀕死状態で舞い戻ってきた守屋を殺めてしまいます。
そして、すべてを知る女中のお初と共に彼の遺体を沼に沈めるのです。
彼が持ってきた暗号のような書状も一緒に…。

そして、それが始まりだったかのように、次々と得体のしれない輩が芙佐の前に現れます。
ついには、息子まで連れ去られ…。
武家の娘に生まれ、親の決めた男と結婚した世間知らずな女性、芙佐。
守谷を泊めたばかりに、知らなくていいようなことまで知ることになります。
そんな中で、夫以外の男性に淡い恋心まで抱くように…。
この時代、自由に相手を選ぶこともできず、家と家の結び付きのみの結婚をさせられた芙佐にとって、人妻と言えど、初めての恋だったのでしょう。
触れること、結ばれることはできずとも、傍にいるだけで胸がいっぱいになる。
丁寧で綺麗な言葉でつづられるもどかしい思いに胸が締め付けられます。
そして、日本語ってやはりとても美しく表現が豊かなんだと再確認させられる流麗な文章。ため息が漏れそうになりました。
女性のしたたかな強さが印象に残りました。
サスペンス要素もあり、最後まで夢中になれた作品です。

氷葬
著者:諸田玲子
出版社:文藝春秋
発行:2016年08月26日

※画像はAmazonより引用させていただきました

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