本屋大賞3位!水墨画を通し青年の成長を描く『線は、僕を描く』

こんにちは。
最近はすっかり春めいて、爽やかな陽気の日が増えてきましたね。
春から夏にかけてのこの時期は、1年の中でも過ごしやすく大好きな季節です。

窓を開け放って、気持ちの良い風と日差しを感じながら読書をすると、とても贅沢なおうち時間になりますよね。
は~。
のんびりって最高~。

さて、今回はそんな読書時間にオススメの、爽やかな1冊をご紹介したいと思います。
2020年本屋大賞3位受賞、砥上裕將(とがみひろまさ)さん著の、『線は、僕を描く』です。

あらすじ

物語は、主人公・青山霜介(あおやまそうすけ)が水墨画と出会うことから始まります。
大学1年生である霜介は、2年前に両親を失った喪失感から立ち直れず、孤独に閉じこもりがちで、感情も気力も希薄な状態にいました。
進路決定もままならなかった彼は、エスカレーター式に上がれた大学に、何となく通う日々。

唯一の友達?と呼べる存在の、古前君(イガグリ頭に常にサングラスという風貌。笑)に誘われるがまま、展覧会の会場設営のバイトに駆り出され、そこで初めて水墨画や人生を変えるきっかけとなる湖山会の人達と出会う事になります。

会場設営の後、後に宗介の先輩となる”西濱さん”の「よかったら展示を見ていってね」という言葉を受け、フラフラと会場をさまよっていると、ひとりの朗らかな老人と出会います。
その老人というのが、水墨画の巨匠”篠田湖山先生”だったのです。
なぜか気に入られた霜介、勝手に「内弟子にする」と言われ、思わぬ形で水墨画の世界に入ってゆきます。
そこに居合わせた湖山先生の孫娘であり、自身も水墨画家である”千瑛(ちあき)”。
突然現れた霜介を内弟子にするという事に大反対します。
霜介は、そんな千瑛に水墨画での勝負を挑まれ、翌年の湖山賞の審査で勝負をする事になってしまいます。

その日を境に、霜介の無色だった人生が少しずつ動き始め、空っぽだった心が徐々に埋まっていくのです……

ひとつめの魅力、描写

この物語の魅力のひとつは、作品や水墨画を描くシーンの描写です。
自身も水墨画家という、作者の砥上さん。
実際に経験のある方だからこそ書ける文章が、とても印象的でした。

絵を描くシーンでは、墨の香りや質感、筆の重み、水に浸した時の気泡の立ち方、墨に筆をつけて、硯から紙への筆の運び、腕の動き、画仙紙に筆致した時の感触、筆圧、紙に墨が染み込んでいく様まで綿密に書かれており、圧巻です。
読むという行為しかしていないのに、五感を刺激され、水墨画を描くという行為をしている感覚になります。
霜介が作品を描くために、画仙紙に筆を入れる瞬間は、緊張すら覚えるほどでした。

作品が出てくるシーンに関しても、色や雰囲気の巧みな描写によって、そのひとつひとつが、ありありと目に浮かぶような文章でした。
他の読者さんの頭の中ではそれぞれの作品がどんな形で出来上がっているのだろう?と、そんな感想さえ抱きました。

ふたつめの魅力、登場人物

ふたつめの魅力は、作品に出てくる登場人物です。
孤独な主人公を救い出してくれた先生や、水墨画を極めるために日々もがいている画家たち、
親切にしてくれる友人や、必要な時に教えをくれる先輩など、この作品に出てくる登場人物はみんな心が温かく、一生懸命です。
清々しくまっすぐに生きる事の尊さを、この作品から感じました。
特に、霜介と千瑛、2人の若者が水墨画に人生を掛ける姿が瑞々しく、胸に響きました。

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が延長され、もう少し続きそうなおうち時間、今話題の青春小説で、爽やかな気持ちになってみてはいかがでしょうか?

『線は、僕を描く』
著者:砥上裕將(とがみひろまさ)
出版社:講談社
発行:2019年7月3日 第一刷発行

※画像は講談社book倶楽部より引用させていただきました

関連記事一覧