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月のように形を変える女の悪意 小説「病む月」唯川 恵著 集英社文庫

以前、女性が多い職場に勤めていた時のお話です。
定年退職をした前所長の後続として赴任した新しい所長のみが男性でした。

しかしこの新所長がとんでもない超パワハラ男。
人前で怒鳴り散らす、個別で呼び出して脅すのは当たり前。
さらには、独自の朝礼を行うために会社で決められた出社時間の20分前に来ることを強要し、そのうえ入り口の鍵を閉めるので遅れると入室出来ず、外で待機させられます。
皆、かなりストレスは溜まっていたと思います。
それが原因で辞める人が増えたことに危機を覚えたそれぞれの組織のチーフたちの呼びかけで、ある日、所長を除く従業員全員がファミレスに集合し、本社のパワハラ相談室に通報しようということになりました。
そして、そこで明かされた数々のパワハラ行為…。
泣き出してしまう人もいました。
しかし、告発は上手くいかず…。
内通者がいたんですよ。しかも、本社のパワハラ相談室には所長の同期がいたようですべてが所長に伝わっていたのです。
あの時の絶望感…。今思い出してもぞっとします。
退社した後に聞いた話では内通者は泣きながら所長の所業を語った女性だったようです。
うすうす怪しいとは思っていたのですが、2人は不倫関係にあったということです。
彼を守るためだったのか、それとも私たちを貶めるためだったのか?
多分、どちらも正解なんでしょう。恐ろしいひと。

さて、今回ご紹介する小説は「病む月」です。いやな女大集合という感じです。



では、あらすじを簡単に

彼女は昔から嫌な女だった…。
協子はパトロンの橋口と訪れたレストランの席で、比佐子の姿を認め不愉快な気分になります。
比佐子の向かいには男が座っていました。協子はその男に強く興味を持ちます。
青年と呼べるような清潔感を備えている彼は比佐子よりも年下に見えます。
(恋人か?それとも夫?)-いやな女-

2月の第二土曜日。
私はこの日、必ず新調した着物を着ます。
ここ4年、それを欠かしたことはありません。
茄子紺の友禅を倉沢は気に入ってくれるだろうか…。
その日だけは私は「ゆき」という名の雪おんなになるのです。-雪おんな-

北陸、金沢を舞台に月の満ち欠けのように変化する女を描いた10篇の短編集です。

作家情報

作者は唯川恵さんです。
本作の舞台になっている石川県金沢市のご出身です。
29歳の時に『海色の午後』で集英社第3回コバルト・ノベル大賞を受賞し、作家デビューしました。
数々の恋愛小説を発表後、2001年、46歳で『肩ごしの恋人』にて第126回直木賞を受賞しました。
また、エッセイにも定評があり、多くの読者からの共感を集めています。

ひっそりと

金沢を舞台にした短編ということでしたので、儚げで情緒的な恋愛小説集かと思いきや、なんとまあ、タイトル通り「病んでいる」10人の女性たちのお話でした。
表題作の「いやな女」では嫉妬、羨望、嫌悪が渦巻いていて眩暈が起こりそう。
ずっとこんな感じ?かと思いきや、ふと暖かな気持ちにさせられる章もあり。
作者の物語世界にすっと引き込む語り口の巧みさに驚嘆いたしました。
“キレがある”という感じです。
女性の闇(病み)を描いているのですがまとわりつくようなじっとり感はありません。
幽霊や異形なモノは出てきませんが、女性が抱く悪意とはこんなにも恐ろしいものなのか…。
とはいえ、共感する部分も多々あり…。そうですね、私も女性でした。きっとどこか病んでいるのでしょう。
金沢には一度だけ行ったことがあるのですが、この本を読んだらもう一度訪れてみたくなりました。
それほど風景の描写も素晴らしいのです。
静かな夜にひっそりと読みたい本です。

病む月
著者:唯川恵
出版社:集英社
発行:2003年6月20日

※画像はAmazonより引用させていただきました

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