天才たちをより身近に感じるもの、それは彼らの大好物!食材から見るイタリアの天才たちの姿
西洋美術はちょっと苦手という人でも、レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロの名前は、学校の教科書に登場するまでもなくご存じだと思います。
とはいえ、彼らの業績やら作風やらはとっつきにくいというのが正直なところ。
そこで今日は、これらの天才たちをより身近に感じていただくために、彼らの大好物であった食品を紹介したいと思います。
レオナルドやミケランジェロが、作品としてではなくスケッチやメモの片隅に残した一言から浮かび上がる当時の食事情です。
よみがえったレオナルドのブドウ園、そしてイータリー
2015年の夏、イタリアの紙面をにぎわせたレオナルドのニュースがありました。
それは、レオナルドが手掛けた有名な『最後の晩餐』の報酬の一部であったぶどう畑がよみがえった、というニュースです。
ミラノの公爵から注文を受けて、サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会の食堂に『最後の晩餐』描き始めたのは1495年。その報酬の一部として、教会からほど近いところにあるぶどう園を受け取ったのは1498年のことでした。
2015年にミラノで開催された「食」をテーマにした万博を機に、アッテッラーニ邸の一部にあるこのぶどう園が復元され、公開されたのです。公開当時から大変人気で、1日の訪問者は上限の500人に達するのが常でした。
ちなみに、このぶどう園のぶどうはイタリアを代表するサンジョヴェーゼではなく、レオナルドの時代にヨーロッパで大流行していた「マルヴァジア・ディ・カンディア」という品種です。
『最後の晩餐』がらみの食の話題といえば、イタリアの大手総合フードマーケット「イータリー」がその修復のために100万ユーロ(約1億7千万円)を寄付したというニュースがありました。
レオナルドという名前がつけば、大企業も宣伝費として大枚をはたいてもおつりがくるのかもしれません。
ちなみに、レオナルドが描いた『最後の晩餐』の卓上には、鰻とオレンジの料理がのっていることが判明したと、学者のジョン・ヴァリアーノ氏が発表しています。
レオナルドとお米
レオナルドもミケランジェロも、ワインやチーズやサラミが美味しいトスカーナ州の出身です。そのため、2人とも舌は肥えていたのではないかというのが一般的なイメージなのです。特にレオナルドは、数多くの草稿の中に燻製のための機械や肉を焼く機械のスケッチを残しているので、元祖お料理男子であった可能性もあるんですよ。
レオナルドは、1480年ごろにミラノに移住します。ちょうどこの時期、ミラノでは米の栽培が盛んになっていました。
イタリア料理のひとつとして知られるリゾットですが、イタリア北部で米の栽培が始まるのは1475年ごろのことです。当時のミラノ周辺では灌漑施設を整備する必要があり、ミラノの公爵はそれに合わせて米の栽培を推奨したのでした。
レオナルドが確実に米を知っていたことがわかるメモに、レブスと呼ばれる言葉遊びのゲームがあります。この中に、「米」を表す「Riso」という言葉が存在しているため米を認識していたと思われます。
現在は、サフランの入ったミラノ風リゾットが有名な米、当時のミラノっ子たちもその美味しさに驚いたことがミラノ公爵からフェッラーラ侯爵への手紙でわかっています。
トスカーナ出身のレオナルドも、当時のニュースであった米の料理を口にしていた可能性はかぎりなく高いといえるでしょう。
レオナルドとミケランジェロの愛したチーズ
レオナルドのことを激しくライバル視していたミケランジェロ。
ミケランジェロのメモにも、数多くの食材が登場します。「ニシン」や「パン」「フェンネルのスープ」などといった、非常に親しみのあるメモが残っていてちょっとユーモラスです。
ミケランジェロといえば、トスカーナ出身ながらローマに住む者には非常に近しい存在。どこからでも見えるサン・ピエトロ大寺院のクーポラはミケランジェロの設計ですし、町中を歩いていると彼の息吹を感じるからかもしれません。いつも怒ってばかりいたというマエストロの、ちょっとかわいい食のメモといったところでしょうか。
ミケランジェロにはまた、ご贔屓のチーズがありました。これが、現在はDOP(保護指定原産地表示)に認定されている「カショッタ・ドゥルビーノ」というチーズ。羊乳と牛乳の割合が7:3で作られるこのチーズは、羊たちが若草のみを食べることが条件であったそう。このチーズを溺愛していたミケランジェロ、なんとローマでの仕事中の1554年、牧草地のある土地の賃貸に興味をもったという記録まで残されています。
いっぽうレオナルドの愛したチーズは、ピエモンテ産の癖のあるチーズ「モンテボーレ」。このチーズの美味は、レオナルドが仕えたミラノ公爵の娘の結婚披露宴にも登場したことでも証明済み。一時期は生産がストップしていたものの、偉大なるルネサンスの天才ゆかりのチーズということで復活、現在はイータリーで入手できます。
ミケランジェロはラードも大好き!
ミケランジェロといって忘れてはならないのはラードです。
日本でラードというと、ちょっと脂ぎっていて女性ならば敬遠したいイメージがあります。ところがイタリアのラードは、ほどよく溶ける質のよい脂が特徴で、オーブンで温めたパンの上にのせてそのまろやかな味わいを堪能します。
ミケランジェロがことのほか愛したラードは、真っ白な大理石の産地コロンナータの特産です。豚肉にローズマリーやセージなどのハーブをふんだんにまぶして、なんと大理石の箱の中で熟成させるというラードのエリート。
ほどよい甘ささえ感じるコクのあるコロンナータのラード、精力的に芸術家として活動したミケランジェロのスタミナ源であったことが想像されるのです。
衣食住といった人間の生活の根幹から、雲の上の天才たちを見るのも愉しいかもしれませんね。
参照元
・Leonardo non era vegerariano Dalla lista della spesa di Leonardo alle ricette di Enrico Panero Oscar Farinetti監修 Maschietto社刊
・https://www.vignadileonardo.com/it
・https://claudiaviggiani.com/michelangelo-buonarroti-e-il-cibo-per-i-suoi-collaboratori/
・https://www.giannellachannel.info/tavola-ultima-cena-leonardo/
・https://www.ruminantia.it/casciotta-durbino-dop-il-grande-amore-caseario-del-maestro-michelangelo-buonarroti/
・https://www.lacucinaitaliana.it/news/trend/mai-assaggiato-il-montebore-il-formaggio-di-leonardo-da-vinci/
・https://www.qualigeo.eu/prodotto-qualigeo/lardo-di-colonnata-igp/