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朱川湊人「かたみ歌」懐かしくて切なくてほんのり怖い、ドラマ化もされた小説

白い手

先日、テレビで心霊体験の再現VTRを観てしまった。

もうそんな時期なんですね。
早すぎません?

何の気なしに観ていたら
「あ、これダメなヤツ」
と気付いたのですぐに違うチャンネルに変えました。

心霊系は苦手です。

そんな怖がりな私でも、1度だけ不思議な体験をしたことがあります。
20代の頃、友人の家に泊まった日のことです。
深夜2時くらいでした。
少し小腹が空いた私たちは、友人の車に乗り、コンビニに向かいました。
友人の家からコンビニまでは少し距離があり、車で片道10分くらいだったと思います。
暖機をしておいた車内は乗り込んだ時にはすでに暖かく、コンビニにつく前に私はウトウトしていました。

「寝ていてもいいよ。何が欲しい?」
「甘くない飲み物」
「オッケー」

コンビニに着くと友人は私を車内に残し一人で店内に。
私はシートを倒し再び眠りに…。
しかし、友人のカーステレオから聞こえてくる深夜ラジオの音楽がやけに大きく感じられ、身体を起こし音量を下げようとした瞬間…。

まっしろで体温を感じさせない手首から先だけの手が、スーッと浮かび上がりカーステレオのスイッチを消したのです。

そして、そのままスイッと消えました。

目の前で起きた出来事にあっけにとられた私は、すっかり眠気も冷め呆然としていました。
しかし、もっと不思議だったのはそれを全く怖く感じなかったこと…。
何だったんでしょうね。

さて、今回ご紹介する小説は「かたみ歌」
ほんのり怖い短編集です。

では、あらすじを簡単に

舞台は昭和30~40年代の東京・下町のアカシア商店街の周辺。
アーケードのある商店街のレコード店からは、古い流行り歌の「アカシアの雨がやむとき」がテーマソングのように流れています。
殺人事件の起きたラーメン屋の様子を、電柱の陰から窺う若い男の正体は?
(紫陽花のころ)

商店街の酒屋の電柱に貼ってあったわら半紙には「カラスヤノアサイケイスケアキミレス」と全部カタカナの汚い文字で書かれていた。
「貼ったのは絶対子供だ」
明智小五郎のように聡明な兄は推理するが…。
(夏の落し文)

ボウリング場からの帰り道、すれ違った灰色のサックドレスのおばあさん。
どことなく品が良くて、手にもっていた淡いピンクの花束がよく似合っていた。
(ああ、きれいな花だな)
しかし、その後すぐに、おばあさんはコンクリートミキサーに巻き込まれて頭をつぶされ死んでしまった。
(朱鷺色の兆)

もの哀しい郷愁に満ちた7編の短編集です。

作品情報

作者の朱川湊人さんは、2002年に「フクロウ男」でオール讀物推理小説新人賞を受賞して作家デビューしました。
そして2005年、42歳の時に『花まんま』で直木賞を受賞されています。

昭和30年代から40年代の下町を舞台とした「ノスタルジックホラー」を得意としています。
元々ホラーを得意としていたわけではなく、新人賞に応募しても落選が続き、思い切って作風を変えホラー作品を執筆したところ念願の作家デビューとなったようです。

岸辺一徳さん

調べたところ、2010年の秋に、この短編集の中の「栞の恋」が「世にも奇妙な物語」でドラマ化されていたようです。
主人公の酒屋の娘“邦子”を演じたのは堀北真希さん。
面白いのが、主人公の邦子が好きなグループ「ザ・タイガース」のベース「サリー」の岸辺一徳さんご本人が、古本屋の店主を演じていたところ。

ホラー苦手なのでこの手の番組は避けていたので観ていなかったな。
残念。
岸辺一徳さんをイメージしながら再読しようと思います。

商店街の近くにある覚智寺に漂うは、あの世と繋がる場所があると言います。
だから商店街には不思議なことが起こるのでしょう。

全編に漂うそこはかとない哀愁は、昭和という時代の空気感と相まって懐かしさへといざないます。
丁寧で優しい文体で描かれる情景は、とても美しい映像となって脳裏に浮かびます。
せつなく、美しくそしてじんわりと胸が暖かくなるそんな作品集です。

ホラー苦手な私でも大丈夫でしたよ。

かたみ歌
著者:朱川湊人
出版社: 新潮社
発行:2008年1月29日

※画像はAmazonより引用させていただきました

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