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純粋無垢な兄とカリスマ性を持つ弟。史実と虚構が入り混じる二人のゴッホの物語 マンガ「さよならソルシエ」穂積著

美術館や博物館の静謐な空気が好きです。
高校を卒業し東京の専門学校に通っていたころ、住んでいた場所は都会の真ん中と言ってもよいところでしたが、大きな公園があり、都心とは思えないような静けさを湛えた町でした。

住んでいるアパートの裏手には小さな美術館もあり、都会に住み始めて友達もいなかったお休みの日や学校が早く終わった日は、そこに行くことが多かったです。
ゆっくりと絵を眺めつつ1周したら座り心地の良いソファーに座って、しばし、ぼんやりとした後アパートに帰る。
私の癒しのスポットでした。
静かだけど寂しくはない不思議な空間でした。
そして、「なんだかこんなところにいる私、ちょっと大人」なんて気分に浸っていたのでしょう。
そこに行くときは精一杯、お洒落をしていきました。
あの美術館は今もそこにあるのかな?
機会があればまた行ってみたいなと思います。

さて、今回ご紹介する作品は「さよならソルシエ」です。
ではあらすじを簡単に。

~19世紀末のパリに現れたふたりのゴッホ。後の天才画家の兄フィンセントと画商の弟テオドルス。
子どもの頃から兄の才能を評価し、その絵を世界中に広める野望をもった弟は、マイペースを崩さない兄にやがて嫉妬と怒りを覚えはじめる。だが、兄の身に起こった衝撃の事態を前に、弟はある作戦を仕掛ける決断をした・・・。生前、1枚しか売れなかったゴッホが、なぜ現代では炎の画家として世界的に有名になったのか…。その陰には実の弟・テオの奇抜な策略と野望があった!

作者の穂積さんは2010年、「式の前日」で『月刊flowers』コミックオーディションで銀の花賞を受賞し、デビューしました。
「さよならソルシエ」は、「月刊flowers」にて2012年10月号から2013年10月号まで連載され「このマンガがすごい! 2014(オンナ編)」で第1位に輝いています。

さて、ストーリーは19世紀末のパリを舞台に、実在したオランダ人の画家、フィンセント・ファン・ゴッホと、彼の弟で画商だったテオドルス・ファン・ゴッホ。
この二人の兄弟に焦点を当て繰り広げられます。

ゴッホと言えば「ひまわり」が有名ですね。2015年に公開された「劇場版名探偵コナン 業火の向日葵」で怪盗キッドのターゲットにもされていました。
私は芸術に疎いので知らなかったのですが、ひまわりって1点だけではないんですね。
7点制作され、そのうち6点が今も残っているそうです。

フィンセントは自ら耳をそぎ落としたり「炎の人」「狂気の天才」などと称されているので、情熱的で激しく、人生を絵に捧げた人だというイメージが強いのですが、この作品での彼は純真無垢でおっとりとした明るい人物として描かれています。

一方、弟のテオドルスは兄の才能に惚れ込み、上流階級のためにだけあるような芸術に逆らい、その体制を内側から壊そうと画壇を引っ掻き回す画商です。
私は物事を見通すような不敵で不遜なテオドルスにこそ、ある意味狂気が宿っているのではないかと感じました。

そして何よりも、テオドルスのビジュアルが宝塚歌劇団の男役のように美しく描かれていて、本当のことを言うと、中身は確認せずに表紙買いしてしまった作品です。
一目ぼれです。
史実とはかけ離れた作品と言われていますが、逆に史実から膨らませてこのようなストーリーを構築した作者の才能に圧倒されます。

2巻完結でサクッと読めますが、ズンとした余韻がいつまでも胸に残る作品です。

さよならソルシエ
著者:穂積
出版社:小学館
発行:2013年5月10日第1巻発売

※画像はAmazonより引用させていただきました

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