触れると消えそうな光のような恋 小説「すべて真夜中の恋人たち」川上未映子著
田舎の冬の夜はなんだかとても長く感じます。
家は公道に面しているのですが21時を過ぎる頃にはもう車の往来もほとんどありません。
それでも昨年までは狭い6畳間に息子と2人でいたので音が溢れていましたが息子が1階の部屋に移ってからは夜がとても静かです。
しかし本を読んだり映画を観たり好きなことが出来るので寂しさを感じることはあまりありません。
眠りにつくときもすごく静か。
息子はアニメや音楽を流しっぱなしだったからな。
ただ、一緒に寝ている体重約8キロの猫に真夜中、必ず起こされます。
耳元で「ニャー」と鳴かれるのはまだいいのですが、たまに顔面をペチペチと叩かれるのはいただけない。
そして、部屋の外に出して猫がトイレや水を飲んでから戻ってくるのを待っていなければなりません。
温かい時期はまだよいのですが寒くなるこれからは布団から出るの辛いな。
そして、寝息もたまにギョッとするくらい人間っぽいのも怖いんですよ。
まるでオッサンの寝息のようで…。
さて、今回ご紹介するのは小説「すべて真夜中の恋人たち」です。
では、あらすじを簡単に
入江冬子34歳。
人とでかけたり付き合ったりすること、言葉を交わしたり普通に会話することさえうまくできず、小さいころからコミュニケーション能力に自信がありません。
今はフリーで校正の仕事をしています。
楽しみは12月の誕生日の真夜中に散歩に行くこと。
連絡を取り合うのは、仕事で付き合いのある出版社の校閲社員、石川聖(ヒジリ)のみ。
ひっそりと静かに生きていた彼女は、ある日カルチャーセンターで58歳の男性、三束(ミツツカ)さんと出会います・・・。
作家情報
作者は川上未映子さんです。
詩人としても活動されています。過去には歌手としても活動されていたようですね。また、女優としても2つの新人賞を受賞しています。
とても多才な方ですね。
小説家としては2007年、処女作である『わたくし率 イン 歯ー、または世界』が講談社より刊行されました。
2008年には『乳と卵』で第138回芥川龍之介賞を受賞されています。
大坂弁で語られる軽妙なエッセイに定評があります。
書き出しが秀逸!
“真夜中はなぜこんなにきれいなんだろうと思う”
物語の冒頭のこの一節に思わず引き込まれ、真夜中に一気読みしてしまいました。
ストーリーは人づきあいが苦手で自宅のアパートで1人、校正の仕事をしている冬子の視点で描かれています。
他者からぼんやりしていると思われている冬子視点なので、ゆっくりと静かに淡々と物語は進行していきます。
冬子が好きになる三束さんも穏やかで優しい人なので2人でかわす会話もほっこりと温かい。
さて、この作品、人づきあいが苦手でぼんやりとしていて、三束さんと会う時もお酒の力を借りないとダメな冬子に共感するか、バリバリと第一線で働き、誰にでもはっきりと物が言える聖に共感するかで評価が分かれる気がします。
私はどちらかというと、人との関係に固執せずに自己完結し淡々と静かに過ごす
冬子に憧れに近い共感を覚えてしまいました。
はっきりものが言える聖にも憧れますが、ちょっと苦手なタイプかも…。
そして、聖以外の女性の登場人物の言葉も、いちいち厳しくて胸に刺さります。
例えば、高校時代の友人の典子。
彼女と冬子は15年ぶりに会います。
典子は現在も故郷に住んでおり結婚して子供もいます。
しかし、夫とはセックスレスで夫婦ともに浮気をしているようです。
地元で親しくしている人やママ友にも言えない話を冬子にした訳は
「冬子はすでに自分の人生の登場人物ではないから」
とにっこりしながら言い放ちます。
冬子はその帰り道、誰にも必要とされていないような言いようのない寂しさに打ちひしがれます。
冬子は何も否定しないし受け入れるけれど傷つかないわけではないのに…。
夫婦2人の不倫の話を延々と聞かされた挙句の典子のこの言葉、キツイな。
ですが、仕事や日常生活の人間関係に疲れを感じている彼女たちには、淡々と自分のペースを崩さず静かに生活をしている冬子がある意味、妬ましいのかもしれませんね。
あれ?私と一緒ですね。
意図的にひらがなを多用しているのかわかりませんが、それがまた静かな冬子の世界観にあっています。
紡がれる言葉もきれい。
三束さんへの思いが恋愛感情なのかわからない冬子が、ゆっくり感情に向き合い恋をしていく様がとても可愛らしい。
ドラマティックな恋愛もいいけど、触ると消えそうな儚い関係性も尊いですね。
真夜中にじっくり読みたい1冊です。
すべて真夜中の恋人たち
著者:川上未映子
出版社:講談社
発行:2011年10月13日
※画像はAmazonより引用させていただきました