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それでも前を向いて生きていく…。消えた人の想いとともに…。小説「刻まれない明日」三崎亜記著 祥伝社文庫

私の息子は4歳くらいになるまでイマジナリーフレンドがいました。
その名は「ごんげん」。
保育園に通い始め現実のお友達ができてからいつの間に姿を見せなくなったようです。
私が小学校2年生くらいの時、双子の妹たちにもイマジナリーフレンドがいたようです。
本人たちは今でも「あの子は本当に存在していた」というのですが、母も私もそんな子の記憶はありません。
妹たちが言うには、
「夏休み前に引っ越してきたけれど夏休み終わる前にまた引っ越していった」
「家にも遊びに来たことがある」
「毎日のように遊んでいた」
というのです。
しかし、いくら双子とはいえ、同じイマジナリーフレンドがいたというのもなにやらおかしなことで…。確かに、引っ越しをしてきた子はいたのですが、妹たちがいう子は女の子。
でも、引っ越しをしてきたのは男の子なんですよ
その男の子のことは私も覚えています。
ですが、妹たちはその男の子とは別だというのです。
私は妹たちのイマジナリーフレンドだと思うんですけど。
それとも私と母の記憶があいまいなだけなのかしら?
いまだに謎なのです。
さて、今回ご紹介するのは小説「刻まれない明日」です。

では、あらすじを簡単に

沙弓は10年前、3095人の人々が理由もなく一瞬にして消え去った「あの事件」が起きた街に戻ってきました。「あの事件」が起きた地区はいまは開発保留地区になっています。
しかし、この街では、「あの事件」以来、今はない図書館から本が借りられていたり、耳の中で鐘の音が聴こえ続けている人々がいたり、廃線になっている路線バスの光が見えたりと、消えてしまったはずの彼らの存在があちこちでいまだに感じられているのでした。
しかし、彼らの気配は徐々に薄くなっていき…。

作家情報

作者は三崎亜記さんです。福岡県出身の男性です。
2004年、『となり町戦争』で小説すばる新人賞を受賞し、デビューします。そして同作は三島賞候補、直木賞候補となりました。
『となり町戦争』は市役所にお勤めされていた時、パソコンを買ったことをきっかけに執筆したということです。
非現実なストーリーの中に現実をリアルに落とし込んだ抒情的な作品はコアなファンが多いようですよ。
本作は2006年に刊行された「失われた町」と同じ世界観をもつ別の失われた町のお話です。続編ということですね。ちなみに消滅した人々の前日譚を描いた「作りかけの明日」という作品もあります。

心に染入る

本作は「あの事件」からただ一人消滅を逃れた少女だった沙弓が街に戻ってきた序章から始まります。
「国土保全省」「歩行技師」「異邦郭」聞いたことのない言葉が溢れていて
「ん?」と少し戸惑いを感じましたが、読み進めるうちに繊細で柔らかな文章のおかげか
「ああ、これがこの作品の世界なのだ」とスッと世界観に入り込むことが出来ます。
それほどそこにいる彼らの営みは自然で現実と何ら変わりはないのです。
死とはまた違う消滅。死んでこの世からいなくなったのならまだ納得は出来ます。
しかし、ただ消えてしまうということはここではないどこかにまだいるのかもしれないという希望を抱いてしまうのではないでしょうか?
そして、街の其処で彼らの存在を感じることが出来るのであればなおさらです。
残された人々はそんな気配を感じることで彼らが存在していたことを忘れずに拠り所にしています。
しかし、その気配も徐々に薄れていき…。
本作は消滅した人々と何らかの関わりを持つ人々がそれを受け入れられずに悩みながら傷つきながらそれでも過去と折り合いをつけ、過去に向き合うまでのお話です。
大切なのは忘れずにいること。前向きな気持ちになれる1冊です。

刻まれない明日
著者:三崎亜記
出版社:祥伝社
発行:2013年03月11日

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