古代ローマ時代から連綿と続くワインの系譜!名前で楽しむワインの銘柄

現在ある数々のワインの銘柄のいくつかは、古代ローマ時代のワインの名が起源となっています。もちろん、当時のワインと現代のワインは製法も飲み方も、そしておそらく味わいもまったく異なるのですが、名前から当時のワインを思い起こすのも楽しいかもしれません。

フラスカーティのぶどう畑(著者撮影)



古代ローマ時代の別荘地はワインの産地「フラスカーティ」

私が住んでいるのは、ローマ南部のカステッリ・ロマーニ地方と呼ばれるところです。
古代ローマ時代から富裕層の夏の避暑地として有名で、現在もローマ教皇の夏の離宮カステル・ガンドルフォを擁しています。

カステッリ・ロマーニ地方に残る古代ローマの遺跡(著者撮影)

このカステッリ・ロマーニ地方にある白ワインの産地として有名なフラスカーティは、かつてはトゥルコラムという名で知られていました。火山性の土壌がはぐくむ白ワインの美味は、謹厳な貴族として有名な古代ローマの政治家大カトーでさえも称賛したほどで、当時の貴族たちはこの地で涼風にあたりながら白ワインを堪能したのでしょう。

美味しいワインの産地として繁栄したトゥスコラムは、ローマ帝国の滅亡とともに衰退し、中世にはブドウ畑も姿を消してしまったそうです。
かろうじてこの地に残った人々が、木々を集めてあばら家(Frasca)を作りぶどうの栽培を再開したことから、フラスカーティという名が生まれました。現在もフラスカーティの町中には、気軽にワインを楽しめる「フラスケッタ」という居酒屋が軒を連ねて往時をしのばせてくれます。

「キャンティ」ワインはなんと古代ローマ以前から

キャンティワインを生むトスカーナの丘陵地帯


黒い鶏のマークで有名なキャンティワイン。おそらく、世界で最もよく知られているイタリアワインのひとつでしょう。
トスカーナの美しい風土に育まれるキャンティワインの起源は古代ローマより以前、紀元前6世紀のエトルリア文明にまでさかのぼります。

その名の由来となった「Clante」は、エトルリアの有力貴族の名字であると同時に質のよい水を差す名詞でもあったそうです。この「クランテ」という響きが変化し、現在の「キャンティ」になったというわけです。

ちなみに、「キャンティワイン」という名称が公的に認められたのは1398年のこと。それ以前から、トスカーナの丘陵で作られるワインは芳醇な味わいで知られていたようです。

フランスを代表する白ワイン「シャルドネ」は?

今や世界中で栽培される白ワイン代表シャルドネ


白ワイン代表ともいえるシャルドネは、フランスはブルゴーニュが原産といわれてきました。
しかし数年前に刊行された古代ローマ時代のワインについての書籍『ROMA CAPVT MUNDI』によれば、細菌の遺伝子学の研究でシャルドネはそもそも古代ローマ時代にパンノニアと呼ばれていた現クロアツィア、モラヴィア、ハンガリーあたりに起源があるという研究が発表されたそうです。それが中世の時代にフランスに渡り、ブルゴーニュ地方で突出した美味の白ワインを産するようになったわけです。

ラテン語では「Cardonnacum」と呼ばれたこのぶどう、イタリアではよく目にするカルドンという食用にもなる植物が周辺に密生していたことが名の由来という説もあり。
栽培しやすいシャルドネは、現在はヨーロッパだけではなくアメリカやオーストラリアにも普及して数々の銘ワインを生み出しているのです。

イタリアワインの顔「サンジョヴェーゼ」

ブルネッロをはじめとするイタリアの銘ワインを生み出すサンンジョヴェーゼ

スーパータスカンの父と呼ばれた醸造家ジャコモ・タキス氏は生前、「フランスにはカベルネが、イタリアにはサンジョヴェーゼがある。この2つの品種の歴史はすなわち、ワイン大国と呼ばれる2国を象徴している」と語っていました。

実際、イタリア半島のぶどう畑の11%を占めるのがサンジョヴェーゼです。ラテン語では「Sanguis Iovis」と呼ばれたこのワインは、直訳すると「ユピテル神の血」。品種としてはロマーニャ地方に起源があるといわれ、紀元前187年に執政官マルクス・アエミリウス・レピドゥスがエミーリア街道を敷設してから、サンジョヴェーゼもイタリア半島を南下し始めます。アペニン山脈越えたトスカーナ地方の土壌とよほど相性が良かったのか、現代のブルネッロやヴィーノ・ノービレ・モンテプルチャーノのブランドワインを生み出しました。

今回あげた数例にとどまらず、私たちが楽しむワインの先祖は古代ローマまでさかのぼるものがかなりあります。1000年の歴史を誇り、地中海を「われらの海」と呼んだ広大なローマ帝国ですから、領土の拡大とともにぶどうの品種も移動したのでしょう。長い食文化の歴史を内包するワイン、先達たちの智慧に思いを馳せつつ飲むのも乙ですね。

参照元
『ROMA CAPVT VINI』La sorprendente scoperta che cambia il mondo del vino
Giovanni Negri/Elisabetta Petrini著 Mondatori刊
https://www.monileviaggi.it/chianti-la-storia-di-un-vino/
https://www.chianti.it/pianetavino/storia/
https://fps.ucdavis.edu/grapebook/winebook.cfm?chap=Chardonnay

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